別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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直哉は、夕実に婚姻届を記入させられたその日、ビジネスホテルにチェックインしたその後、やはり癒しを求め比嘉結菜のもとへタクシーで向かった。 夕実にはめられた指輪はタクシーの中で外し、捨てるわけにはいかないのでビジネスバッグの中に投げ捨てるように入れた。 比嘉結菜にはLINEを入れた。 きっと、ふにゃふにゃとした笑顔を自分に向け癒してくれるに違いないと願いながら。 唐沢直哉は、比嘉結菜宅にてある男と鉢合わせすることになるとはこの時は思っていなかった。 比嘉結菜宅につけば見たことのないメルセデスが駐車場に停まっていた。 他所の人が無断駐車をしたのだろうとあまり気に留めずに比嘉結菜宅のインターフォンを押す。 比嘉結菜はいつものように唐沢直哉を迎え入れた。 「直くん?夕実さんにつめられた?」 比嘉結菜はそう言いながら直哉の首に手を回し、唇を重ねて直哉を甘やかす。 「ゆいちゃん、抱かせて。俺を癒して。キツい。辛い、助けて。」 「いいけど……、してるとこ…直くんは見られても構わない?」 直哉は足下、その下に踏みつけにした革靴に気がついた。 自分の履いている革靴よりもはるかに高そうなブランドものの革靴は誰のものなのか。 「誰が来てるの?」 「んー?私のパパ。父じゃなくてお小遣いくれるパパね。」 「……え。」 「まあ、上がって。靴は……気にしないで。靴ならパパは何足も持っているから。」 直哉は踏みつけにした靴からそっと足を外した。 幸いなことに“パパ”は、玄関にはいなかったので直哉が靴を踏んでしまったことはバレずに済みそうだ。 でも一応気にするように、玄関に置いてあった靴用のスポンジで、ブランド品の革靴についてしまった汚れを拭った。直哉は基本小心者だ。 「直くん、私が踏んだことにするから気にしないで。」 「……足の、大きさが…。」 「いいから。ねえ、ジャスミンティーでも飲んだら。少し落ち着いて。」 リビングに“パパ”がいることがわかっているのにそこに誘い入れられることには疑問が湧くが、比嘉結菜に気まずさのひとつも感じない態度から直哉は当たり前のように、結菜の後からリビングに入った。 が。
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