別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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ソファーから立ち上がった篠木由治は、額を床につける直哉の後頭部をゆっくり撫でる。 直哉は全身が震えるのを感じた。身体中の汗腺から汗が吹き出してくる。 ーーー怖い、怖い、怖い。 直哉の震えは止まらない。 「唐沢直哉くん、なぜ、電話に出なかったんです?」 「…えっ。」 篠木由治は直哉の顎に手を添え、自分の方にその顔を向けさせた。 顔面はわりと整っている。眉がスッキリとまっすぐで、二重まぶたな目元。瞳の色は純日本人ではないのかグレーがかっている。鼻は高くもなく低くもない。団子っ鼻ではなくスッキリとしているし、鷲鼻でもない。口元は、下唇が薄っすら赤く膨らみも適度だ。女付きがしそうな顔立ち…。 だが、27歳という年齢では女性向け性風俗のセラピストやホストにするには少し遅いか……と、篠木由治は直哉の顔を見て品定めする。 それはさておき、脅して組に引き摺り込んでも恨みのひとつも出てこなそうな怯え切った表情に思わず、ふっと笑ってしまう。 「ポーズですが、返済期限がきましたので一応取り立ての(てい)で、ご自宅に張り紙を貼らせてもらいました。しばらく、若い衆が彷徨きますから帰れないでしょうね。」 直哉は、何を言っているのか理解できなかった。 「利子が嵩んでとうとう2000万円に到達しました。君の借金です。アンゼンローンの代表から取り立て依頼があって君に電話したんです。何か、大切な用事の最中でしたか?」 夕実と結婚の話をしていた。そして、夕実が妊娠しているという話も聞いた。 直哉はその時の状況を思い出しながら、現実、今目の前にいる男の顔をまじまじと見た。 「返せるアテはあるんですか?」 直哉は生唾を飲み込んだ。 それから比嘉結菜に視線を移すと、結菜は声には出さずに“ゆ・み・さ・ん・の・ちょ・き・ん”と口を動かしにっこり笑った。
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