別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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ただ、悪い話ではないと思った。 転職先も簡単に決まり、フィリピンで羽を伸ばして荷物を預かって帰ってくるだけで借金がチャラになるなんて夢のような話だと。 しかし、篠木由治の手が背中を伝って自分の腹や尻を弄り出して恐怖に身を強張らせた。体を撫で回される…人身売買? それともやはり、男を抱く男なのか。襟足に汗が滲んでくる。 「唐沢直哉さん。返事をください。今すぐに。」 瞳に涙を滲ませると、比嘉結菜が唐沢直哉の目元を指で拭った。 「パパ、直くん、怖がってるじゃない。いじめないでって言ったでしょう?約束守って。」 比嘉結菜は唐沢直哉を庇うように篠木由治から自分に引き寄せて、その顔を胸元に押し込めた。 直哉の目に胸元の空いた服からチラリと覗いたランジェリーのフリルが映った。 こんな時でも、直哉の雄は反応し熱を持ち始める。 「直くん、ベッド行こ。慰めてあげる。パパにこんなにいじめられてかわいそう。 会ってすぐにどこかに連れて行こうとするなんて。傷つけないで。直くんは、私のだからね。」 『直くんは、私のだからね。』 その言葉に直哉の心臓がドクンと跳ねた。 “パパ”の前だから、おもちゃを取られたくないこどものようにそんなふうに言っているのか。 もしくは常日頃、比嘉結菜は唐沢直哉を束縛したいと思っているのか。 どちらにせよ直哉には相当嬉しい言葉だ。 「返事は、明日の朝まで待ってあげて。パパ。ね?」 比嘉結菜が篠木由治を説得していることなどお構いなしに唐沢直哉は比嘉結菜のふくよかな胸に顔をますます埋めた。 「結菜の頼みなら朝まで待とう。一度帰る。」 「パパ、泊まっていくんじゃなかったの?」 篠木由治は結菜が拾ったおもちゃを無理やり手放させることもできる。しかし、結菜が気に入っているなら今夜一晩くらい自由にしてやっても構わないかと息を吐いた。 「私がいれば唐沢直哉くんが好きにできないだろ。帰るよ。あとは2人で楽しみなさい。」 篠木由治は、ローテーブルに置いた自分のスマホを手に取り、内ポケットにしまうとジャスミンティーの注がれたティーカップを代わりに置いた。 「唐沢直哉くん、ジャスミンティーは飲みなさい。結菜が君のためにいれたものだ。残すのは失礼だろ?」 唐沢直哉の肩を叩いて篠木由治は部屋を出た。
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