別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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「俺、ゆいちゃんのためならなんでもする。」 「なんでも?」 直哉は結菜をギュッと抱きしめた。 体目的、癒し目的。だから飽きもせず、何度も何度も会いに来ている。 恋愛の関係にあればいつか恋が冷め、愛が薄れるのを直哉は知っている。家族になっても、どちらか一方の目的を果たせないとわかった瞬間、それが壊れるということも。 「まあ、子どもは普通には作れないんだけどね。」 「子ども?」 比嘉結菜が唐沢直哉に疑問の目を向ければ、直哉は自分の左手の薬指を見た。 「夕実、子どもができたんだって。俺、絶対治らない不妊症なんだけど。どんなイリュージョンなのかな。」 直哉の言葉に結菜が首を傾げた。と、同時、胸がざわつくのを感じた。 夕実が直哉の子ではない子を妊娠していることにも疑問が湧きつつ、それよりも直哉が自分が不妊症だと知った経緯の方が気になった。 「直くん、不妊症なの?」 「そうだよ。」 「夕実さんのために調べたの?……ちょっと妬いちゃう。」 「え?」 直哉は結菜の『妬いちゃう』という言葉に驚きを隠せなかった。リップサービスだとしても何かしらの好意がなければそんな言葉は出てこないはずだ。 「…えっと、俺。実はバツイチなんだ。」 「へえ、意外。あんなに結婚嫌がってたのに。バツイチだから、結婚が嫌なの?」 直哉は結菜を再び抱きしめた。 「子どもができなくて、調べて、体外受精じゃないと無理ですねって。 で、相手の人は早く子どもが欲しいからって、離婚した。結局、俺なんかどうでも良かったんだよ。結婚なんかそんなもん。 生産性がないってわかったら、2人でいる時に幸せなんか感じなくなる。 だから、結婚は二度とごめんだってそう思った。 結婚に現実味がないって思うのも自分のせいだけどね。」 夕実には言えない自分の秘密を比嘉結菜に次々と打ち明けていく直哉。 直哉は直哉で自分に自分で驚いていたし、同時に自分が比嘉結菜に信頼を寄せていることに気がついた。 結菜が直哉を抱きしめ返した。 「直くん、……ごめんね。」 「ん?」 「夕実さんと結婚してなんて、私わがままだった。そんな辛いことがあったのに。」 「……夕実とは、結婚する。大丈夫。」 直哉が結菜と唇を重ね、舌を絡ませた。結菜に謝罪なんかさせたくないと、長く深い口付けをした。 「ゆいちゃん。大好きだよ。」
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