別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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唐沢直哉が勝手に証人欄を埋めて市役所の市民生活部市民生活課の窓口に婚姻届を提出したのは、その翌日の朝8時。 夕実に連絡のひとつ入れずに、直哉と夕実の婚姻は成立した。 市役所から出てきた直哉は篠木由治の用意したマンションへと連れて来られた。 自宅の鍵を奪われ自宅からは、様々なものが運び出された。金目のもの…そんなものは直哉の家にはない。換金しようと二束三文にしかならない。2000万円もの借金のカタに差し押さえられるものなど何ひとつなかった。 直哉の部屋から運び出されたものは連れてこられたマンションに運び込まれていた。 「唐沢直哉くん、きょうからここで生活してください。スマホも新しく契約したものを使ってください。」 「…あの?」 篠木由治が、マンションの鍵とスマホを唐沢直哉に渡した。 「乃村常務とは、私も古い付き合いでね。愛人に引き取り手が見つかったと喜んでいたんだけれど。」 常務取締役の 乃村忠寿(のむらただひさ)と、この男が知り合いだったと知り、直哉は背筋を凍らせた。 「愛人というのが結菜が昔、随分とお世話になった杉田夕実さんだと聞いてね。何か運命的なものを感じたよ。」 篠木由治の表情が妙に穏やかなのを受け、唐沢直哉は余計に体をこわばらせた。 「夕実さんのお腹に子どもがいることは乃村ももちろん知っているよ。君の子ではないということもな。 乃村の立場上、不倫相手のお腹に自分の子がいるのは良くないからな。 君が籍を入れたこと、知らせてやったら喜んでいたよ。」 目が合えば、篠木由治はニヤリと笑い、唐沢直哉を両腕で正面から抱きしめ耳元で囁いた。 「落としまいをつけてもらうには十分だ。 戸籍謄本はこちらで預かる。君の借金は杉田夕実さんが返済するんだろ?」 臀部を撫でられると、寒気がする。やはり、篠木由治にはそういう趣味があるのではと。 パパ活中の相手を何度も寝とって、昨夜もそうしたその男を犯してやろうとでも考えているのだろうかと冷や汗が流れる。 「人の島を荒らした罪はそう易々消えるものじゃない。君も然りだ。甘んじて受け入れなさい。」 篠木由治が直哉の顎を持ち目を合わせた。 「昨日言った通り、フィリピンから荷物を運びなさい。君がどんな運命を辿ろうと私たちは責任を負わない。」
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