別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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唐沢直哉は偽造パスポートを渡され、フィリピンのラグナ工業団地にある深池重工へ向かうことになった。 篠木由治の思う通りの仕事をし、日本へ帰ってこれる保証はないし、運ぶ荷物が違法薬物であるとは知らされていない。 羽田空港で誰かを待つ唐沢直哉は一見ただの旅行者のようであった。 最近、見張り続けてきた唐沢直哉だが、彼自身は探偵(つまり、俺)に見張られていることには気づいていない。 調査対象者には一定の距離から接近しないのがルールだが、この男は下半身がだらしなくて騙されやすいただのバカだというだけで、気付かぬうちに結婚詐欺と同等の罪を犯し、さらには麻薬密輸法違反まで犯そうとしている。 ついでに言えば比嘉結菜に関わったことで美人局(つつもたせ)詐欺に遭っているのに、そのことにも全く気づいていない。金銭こそ要求されはいないが反社から違法薬物の運び屋をやらされる羽目になっている。 このまま偽造パスポートを使い出国すれば、犯罪者として国際警察に追われてしまう。 人生を棒に振ってしまうが、そんなことすらこの男は考えていないだろう。篠木由治に脅されるままにフィリピンに向かうのだ。 杉田夕実の依頼で調査対象となった唐沢直哉。 俺には同情すべきポイントはひとつもないが、このまま放っておくのは人としての良心が痛む。 出国手続きをする前に、保護すべき対象ではないか。俺は元警察官だから警察に知り合いもいる。 何食わぬ顔で距離を詰め 「隣いいですか?」 声をかけながら唐沢直哉の隣に座った。 「どうぞ。」 遠くから見ていた時より近くで見る方がなんとなく頼りないように見えた。守ってあげたい系の年上の女に好かれるタイプ……。 杉田夕実の性格上、唐沢直哉にハマる理由はなんとなくわかった。空気感から愛情をかければ見返りがありそうな予感がしたのだろう。
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