別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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さて、どうやって保護するか。 唐沢直哉に怪しまれる前に素性を明かした方がやりやすいだろう。 「杉田夕実さんの依頼なんですが。」 「…えっ。」 唐沢直哉が目を見開いて俺を見た。 「…あ、私、探偵なんです。澤木と言います。」 「探偵?」 疑わしい目で俺を見るから、思わず吹き出した。 無理もない。 俺はと言えば髭面に細いフレームのメガネ、寝癖を整えていない髪、服装はアディダスのジャージとビンテージデニムに、足元はスタンスミス。おまけにマウントピースのボディバッグで、どこをどう見ても探偵には見えない。 唐沢直哉は小綺麗にしていて俺のズボラな風貌に距離を取りたいように体をずらした。 「そんな、汚いものみたいにしないでくださいよ。差別です。」 「……。」 俺を少しだけ見て、ロレックスの腕時計を見た。時間を気にするというより、その腕時計が何かの目印なのだろう。 誰かと待ち合わせて、出国手続きをするのだろうか。日頃からつけているものでないことは知っている。 「杉田夕実さんに勝手に入籍手続きしたこと言ってあげたらどうです?」 「……あなたには関係ありません。」 唐沢直哉がポケットからスマホを出してそわそわと何かを確認する。 「もしかして、連絡できないんですかね。前までのスマホ、誰かに取られたとか。 今持ってるスマホには、杉田夕実さんの連絡先が登録されていないとか。」 直哉が昨日まで使っていたスマホはiPhoneで、今直哉が持っているスマホはAndroidのXperia。 「なんなんですか。」 「単刀直入に言います。杉田夕実さんのご依頼であなたの浮気調査に身辺調査をさせていただいています。」 「…あのババア、マジでふざけんな。」 唐沢直哉の機嫌が悪くなるのは想定内。 「あなた、犯罪に巻き込まれてますよ。このままだと違法薬物密輸の容疑で捕まりますけどいいですか?」 「は?」 「あなたの浮気相手、比嘉結菜のパパ活相手は、篠木由治。反社会的勢力深池組の幹部です。深池組は、フィリピンから麻薬と違法薬物の密輸をしています。あなたは、その運び屋になろうとしてますけど。立派な犯罪です。いいんですか?このままで。」 にわかに信じがたい。そんな顔で唐沢直哉は俺を見つめてきた。
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