別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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杉田夕実は、探偵(つまり俺)から有力な情報と呼べるものが届かないため、苛立っていた。 スマホからメールアプリを開いてはため息をついて自宅まで歩いていた。 自分の家に直哉がいれば良いと微かな希望を持ちながら、その道をローヒールのパンプスで歩いている。 ーーー少し、詰めすぎたかしら…。 子どものいる腹を手で撫でながら直哉のことを思う。 自分のしていることに比べたら、あのボンクラ小僧のしていることは、そこまで追い込まれるべきことなのだろうかと。 直哉のしたこと…三度目の浮気に借金…。 直哉と毎日会い、直哉に夢中になっている時は絶対に許せないものだった。 しかし、いなくなってしまった今。 マレーシア料理店で見た直哉の最後の顔は青白く、まるで拷問を受けている罪人ようであったのを思い出せば、やりすぎたかもしれないとそう思うのだ。 「浮気の原因は、私なのかしらね……。」 腹にいる乃村との子に声をかける。直哉と恋人関係になって尚、愛人の関係にある乃村とはいまも縁が切れない。 気軽に会える恋人ではない乃村と、お互いに時間が合えばすぐに会える恋人であった直哉。 努力しなくてもわざわざスケジュールを合わせなくても誘えば来る直哉は夕実にとって都合が良かった。 付き合い始めて1年がすぎ、シたい時に呼べるデリヘルとなんら変わらない扱いをしてしまったこともあった。 自分を直哉のために磨こうなんて考えはその頃にはすっかりなくなっていたのだ。 直哉の前では下着にもこだわりもなくなり、肌がみずみずしさを失っていっても気にしなかった。 乃村の前ではする努力を、直哉の前ではしなくなったのだ。 夕実は直哉に枯れていく自分を見せていた。 にも関わらず自分の裸に直哉が興奮していないのにも、つまらなそうにセックスをしている事にも腹を立てていた。 だから、直哉の部屋を訪れた際に比嘉結菜と楽しそうにクスクス笑いながらお互いの性感帯を刺激しあって、ベッドを軋ませる音、名前を呼び合い同時に達する声を聞いた瞬間。 自分も秘部から蜜を垂らし自らの指を捩じこませ、達したことに悔しさと虚しさが込み上げてきたのだ。 夕実は乃村とは絶えず関係を持っているが、直哉への気持ちは直哉でしか埋められない。 直哉は義務的ではあるが性行為には応じた。 しかし、頑なに避妊具を使うことをやめなかった。 子を作るなら乃村しかいないとのその行為に避妊具を用いることをやめた。 子ができてそれが直哉の子であると言えば結婚せざるを得ない状況が作り出せるし、結婚して仕舞えば、直哉の浮気癖も治まると思っていたのだ。 今でも夕実は信じている。子は鎹で直哉と自分の関係が壊れてることはあり得ないと。
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