別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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食い入るように見つめているのは、直哉の離婚歴。 杉田夕実は聞いていない。直哉に婚姻していた過去があることを。 その相手の名に身に覚えはなく、その相手に恨みも湧いてはこないが、直哉が自分に離婚歴がある過去を隠していたことがとんでもない裏切りに思えた。 震える手で、戸籍謄本の写しをぐしゃぐしゃに丸めて床に叩きつけた。 「何よ!こんなもの持ってきて!!あなたも私を馬鹿にするの!!?!!?」 金切り声が部屋に響く。 深池裕樹は、ため息をついて目の前のヒステリックな杉田夕実を見つめた。 深池祐樹は借金の取り立てに来たのだ。杉田夕実を口車に乗せて、あるわけもない債務責任を負わせようとしているだけだ。 ーーーこのままでは埒が開かない。 深池祐樹はそう思い、杉田夕実を自分の体に引き寄せ、耳元で冷たく低い声を響かせた。 「……馬鹿にしてんのはどっちだ。」 その声は夕実を凍りつかせるには充分だった。 深池祐樹も反社の1人。癇癪持ちの女を黙らせるくらい赤子の手をひねるようなもの。 「借りたもんは返せ。泣こうが喚こうが、夫の責任は妻の責任だ。返す気がないなら山に埋めてやるから熊の餌にでもなれ。」 凍りついた夕実に深池祐樹が目を合わせた。 篠木由治から9年前に深池組の島を荒らした女であるとも聞いている。 「それとも、お前が代わりにフィリピンに行くか?どうする?」 夕実は首を傾げた。 ーーー私が誰の代わりにフィリピンに行くというの? 「あなた、何を言っているの?さっぱりわからないわ。」
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