別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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夕実はなんとか頭を働かせる。深池祐樹が言うように、直哉の借金は妻である自分に返済義務があるものなのだろうかと。 万が一にも、その義務があるなら仕方が無いかもしれないが、その義務の有無を調べる方法は必ずあるはずだ。 「深池さん。私、その辺の女よりは頭がいいのよ。それに私、今、妊娠していてね。あまりストレスにさらされたくないの。」 抱き寄せられ体が近いことを良いことに、夕実は深池祐樹の太ももに自分の脚を擦り寄せた。 深池祐樹を落として仕舞えばこちらのものだと考えたのだ。 ーーー気持ちの悪いババアだ。 深池祐樹は杉田夕実が妊娠していなければ床に叩きつけてやるところをぐっと耐えた。 「直哉は私を裏切ったのかしら。それとも、誰か他に直哉を隠した人がいるのかしら。」 夕実は、深池祐樹の頬に手を伸ばし瞳を潤ませ、唇を重ねようと顔の角度を変えた。 むせ返りそうな化粧品の匂いに吐き気を覚えた深池祐樹は杉田夕実から顔を離し、唐沢直哉を気の毒に思わずにはいられなかった。 唇を重ねることを拒否された夕実は、明らかに機嫌の悪い態度にでる。 「直哉は、比嘉結菜さんと一緒にいるんじゃないかしらね。浮気相手なのよ。 直哉はきっと、比嘉結菜さんに騙されて借金を作ったんでしょ……。 私は直哉の代わりなんかしないわ。 借金の返済は比嘉結菜さんにしてもらって。勤めているランジェリーショップを尋ねたら?」 夕実は、比嘉結菜が深池組と深く関わっていることなど知る由もない。 深池祐樹は、ふっと息をついて薄く笑う。 「チャラついた下着なんか売ってる、いかにも男好きそうな女だから。あなたも騙されるんじゃない?せいぜい気をつけなさい。ほら、もう、帰って。」 杉田夕実は、深池祐樹に床に叩きつけた戸籍謄本の写しと名刺を押し付ける。 「杉田さん。きょうは帰るけど、あんた。口のきき方も、人間としての生き方も考え直した方がいい。 結婚したけど不幸せだろ。これがあんたの現実だ。間違った道徳で生きてるから、夫に逃げられるんだろ。 もし、唐沢直哉が戻ってきたら俺に教えろ。絶対にだ。」 深池祐樹は名刺だけ夕実に握らせた。
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