別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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杉田夕実にしてみれば、先手を取られた気分だった。 「あなたが直哉にすすめたの?」 「…彼氏さんへのプレゼントですか?」 「コレよ。」 夕実が指差したのは男性ものの下着だった。 夕実は比嘉結菜を睨みつける。 とぼけるのもいい加減にしろとその身を震わせた。 比嘉結菜にしてみればいい加減にして欲しいのはこちらの方だ。店にまで押しかけて来てどういうつもりなのだろう。 会うのは三度目、直哉との関係を問いただしに来たのだろうかと、ため息をつきたくなる。 「プレゼントは、おふたりで楽しめるものは如何ですか。マンネリ化に効いたって喜ばれる商品ですよ。お試しもできますが…。」 夕実をどうにか店から人目のつかない場所へ連れて行くため比嘉結菜は賭けに出た。口車に乗って自分についてくれば、後は裏通路からビルの外へ引き摺り出してやるだけだ。 「試すって?」 夕実の問いかけに比嘉結菜は、ファッショナブルなデザインのセルフプレジャートイを手に取った。 「いっしょに遊べるって喜ばれています。露骨じゃなくて可愛いですよね?」 比嘉結菜の近くにはいつの間にか数原がいる。 夕実にはその様子は何か2人が特別な関係に見えた。 「ユキちゃん、その人にそれ説明するなら裏行って。」 数原は、何食わぬ顔でポータブルのバーコード読み取り機を操作して何やら作業をしている。 夕実には比嘉結菜に、数原が何か助け舟を出したように見えた。それに数原の比嘉結菜の呼び方が気になった。 「お店見とくし。てか、このおばさんなんか盗もうとしてなかった?警察呼ぶ?」 杉田夕実は、数原の言動を鼻で笑った。 「比嘉結菜さん、こんなスタッフしか雇えないの?呆れるわね。私がこんな趣味の悪い下着やおもちゃ盗むわけないじゃない。最低ね。」 趣味の悪い……自分の趣味こそ疑えばいいのにと比嘉結菜は思いつつも何も言わなかったが、代わりに口を開いたのは数原だった。 「だったら、二度と来んな。ババア。テメェいっからさっきから客帰っちまってんだろ。」 数原は夕実に聴こるか聴こえないかの小さい声で比嘉結菜の横で悪態をついたのだ。 比嘉結菜はそんな数原の肩を優しくポンポンと叩いて微笑んだ。 「梅乃、送ってくるからお店見てて。発注もお願いね。」 比嘉結菜(数原幸乃)と数原梅乃(かずはらうめの)は、姉妹だ。 数原はかつて比嘉結菜が杉田夕実にいいように使われていたことを知っている。
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