別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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比嘉結菜はアイスティを顔に浴びて、眉尻を下げて口角を上げた。 ーーー夕実さんは、悲しい人だ。 人のことは自分のための道具にしか見ていない。思い通りにならなければ、こうして暴力に訴えるのだ。 直哉のことだって、本当に大切にしていたのだろうか。周りへ見栄を張るために直哉という彼氏をファッションアイテムのようにそばに置いておきたかっただけじゃないのか。直哉が気の毒だ。 「ふざけるのも、いい加減にしなさいよ!!直哉を返しなさい!!」 杉田夕実の叫びにも似た声が店に響いた。 アイスティまみれの比嘉結菜に、杉田夕実はお絞りを投げつけた。 周りの客は何が起きたのかとザワザワし始める。 それでも、比嘉結菜は動揺ひとつせずに口元に笑みを見せた。 「誰を選ぶかなんて、直くんしかわからないじゃないですか。」 「はあ!?」 淡々とした比嘉結菜の態度は杉田夕実をますます激情させる。 「直くんは軟弱で幼い男の子なんです。優しくて女の子らしいママが大好きなんですよ?」 比嘉結菜は夕実に投げつけらたおしぼりで、アイスティが染み込んだトップスを拭う。 「夕実さん、私は今の夕実さんに人間としての優しさも女性の魅力も感じません。」 杉田夕実は比嘉結菜の言葉を受けてますます顔を歪ませた。 「直くんは、夕実さんの道具じゃありません。他人の子どもを育てる義務もないんです。直くんがいなくなったのは、私のせいではないと思います。」 比嘉結菜は夕実に見えないように伝票を持って立ち上がった。 「仕事があるので失礼しますね。」 杉田夕実に対し、比嘉結菜はほわほわとした笑顔を見せた。 「夕実さん、あまり体を冷やさない方がいいと思いますよ。」
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