別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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唐沢直哉が無断欠勤となり1週間が過ぎた。 「すみません、唐沢、本日もお休みをいただいておりまして……。」 直哉が担当している取引先から電話が来るたび、新人事務の女子社員が断りを入れている。 「杉田さん。」 電話対応をしていた女子社員が電話を保留にして夕実を呼んだ。 「ポンドホームズさんから、設計の見積もりのお返事が欲しいって……先週から待ってもらっている案件なんですけど……。」 有機農場が新しく始めるカフェレストランの店舗設計の見積もりの件だった。 「さっき、石狩農園さんからも、見積もりはまだかって連絡があって。」 直哉は、有機農場 石狩農園の授産施設としての企業運営にアドバイザーとして入っていて、新規事業として行う農園レストランの店舗立ち上げの業務を担当している。 しかし、夕実は直哉の仕事内容など把握していなかった。係長ではあるが、仕事は現場任せにしているのだ。 「そんなもの、保留にしてどうするの?担当が不在なんだから折り返しにしなさいよ。早く!」 「は、はい。」 新人事務の女子社員が、電話の相手に折り返すと伝えている中、夕実はイライラしながら、直哉のパソコンを開くがセキュリティーがかかっていてパスワードがわからず、大きくため息をついた。 女子社員が電話を切ったのを確認すれば 「あなた、何をやってるの?こういう時は折り返しにするの。常識でしょ?」 その場の全員に聞こえるような声でイライラをぶちまけ、直哉のノートパソコンの電源ケーブルを抜いた。 周りの人間は、ノートパソコンを小脇に抱えた夕実をチラチラと見ている。 「何よ?仕事しなさいよ、あなたたち!」 最近、夕実の部署内での評価が低い。 名ばかり係長で仕事ができない。部下への当たりが強すぎる。給料泥棒。……直哉が会社に来なくなってからそんな陰口を言われ始めている。あるいは、前からそう言われていたのかもしれない。 夕実は役職がある立場で、仕事をさせる立場。 部下や後輩に仕事をさせるという仕事をしてきたつもりだった。 「…いい加減にしてよ。」 ーーー全員、役立たずのくせに!! 夕実はノートパソコンを床に叩きつけてしまいたい気持ちだった。
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