別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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怒り心頭でノートパソコンを持ってきたのは、総務部。社内PCの管理はここで全て行っている。 「杉田さん?」 総務部のドアを叩こうとする夕実に声をかけてきたのは 「…、常務。」 夕実は乃村の周りを一応気にして頭を下げた。 「どうしたの?パソコン…?」 「セキュリティーのパスワードがわからなくて。」 「誰のパソコン?」 「唐沢のパソコンです。」 乃村は、ふっと軽く息をついて気の毒そうな顔をした。 「ああ。聞いたよ。彼、鬱病で休んでるんだってね。」 「…鬱病…。」 部署内のただの噂が常務にまで伝わっているなんてと、夕実はため息をついた。 「君のパワハラだってね?」 「…え。」 根も葉もない噂を直に押し付けられると、夕実も流石に苦痛だという感情が湧いてくる。 「噂が一人歩きしているようだね。唐沢くんはひ弱なタイプに見えるからな。無断で会社を休めば、誰かにいじめられて会社に来ないと言われても仕方がないし、1週間も休めば鬱病を疑われるのは頷けるだろう。」 乃村は労う意味を込めて夕実の肩を抱いた。 「唐沢くんの働き方で、他社に迷惑をかけるのは君の責任じゃない。その上の神保(じんぼ)課長の責任だ。何かあれば神保課長を処分するよ。唐沢くんの指導不足は彼の責任だ。君の責任じゃない。」 「確かに神保課長は責任者として不足している部分が多いですよね。 私にもわかります。あの方はなぜ課長なんでしょうか。判断が遅いんですよね、いつも。」 確かに唐沢直哉の無断欠勤は杉田夕実のせいではないが、唐沢直哉の上司は係長の自分だ。部下の教育の仕方に問題があると言われても仕方がないと思っていた。 「パソコンの管理は兼子(かねこ)さんか。確か銀行に行ってるよ。彼女が帰ってくるまで、私の部屋に来なさい。君の部署には、まだ…戻りたくないだろ。」 肩を抱いたその腕は腰に回った。 「そうですね。ありがとうございます。」
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