別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

64/142
前へ
/143ページ
次へ
「あなた、こんなところで何をやっているのよ。」 杉田夕実が声を荒げたのは、自身が務める会社のロビーだった。 受付に立っていた女を見るなり顔色を変え近寄った。その女は、比嘉結菜に身長も雰囲気もそっくりだったのだ。 「……すいません。派遣会社の者なんですが…人事部さんから動員のご相談があって…打ち合わせに……。」 顔を見れば全く違った。似ても似つかない人物だったし、比嘉結菜よりも杉田夕実よりもかなり年上だった。首から派遣会社の社員証を下げていて、少し引き攣った顔で杉田夕実を見つめた。 「人違いよ。紛らわしいのよ!」 杉田夕実は、見ず知らずの他人にさえ怒鳴り散らすようになっていた。 受付にいたその女性は、迎えにきた人事部の社員と共にエレベーターフロアに向かって行った。 ロビーに取り残された杉田夕実の耳に 「…大丈夫ですかね、杉田さん。」 「なんか、ストレスなのかな……。」 「日に日に老けてくよね。」 「てか、怖い…。」 とコソコソ話す受付2人の声が入ってくる。 ーーー老けてくよね?私が?何言ってるのよ。怖い?誰が?私が?ふざけるんじゃないわよ。くだらない話ししかしないくだらない人間ばっかり。全員死ねばいいのに。 杉田夕実は、怒鳴り散らしたいほどの感情を拳を握りしめてやり過ごしている。 自分がこんなに惨めなのは誰のせいなんだと考える。直哉がいなくなったから自分は惨めなのだと。 勝手にいなくなって、こんなも私を追い詰めるのかと唐沢直哉に憎しみの念を抱き(いだき)始める。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加