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「あなた、こんなところで何をやっているのよ。」
杉田夕実が声を荒げたのは、自身が務める会社のロビーだった。
受付に立っていた女を見るなり顔色を変え近寄った。その女は、比嘉結菜に身長も雰囲気もそっくりだったのだ。
「……すいません。派遣会社の者なんですが…人事部さんから動員のご相談があって…打ち合わせに……。」
顔を見れば全く違った。似ても似つかない人物だったし、比嘉結菜よりも杉田夕実よりもかなり年上だった。首から派遣会社の社員証を下げていて、少し引き攣った顔で杉田夕実を見つめた。
「人違いよ。紛らわしいのよ!」
杉田夕実は、見ず知らずの他人にさえ怒鳴り散らすようになっていた。
受付にいたその女性は、迎えにきた人事部の社員と共にエレベーターフロアに向かって行った。
ロビーに取り残された杉田夕実の耳に
「…大丈夫ですかね、杉田さん。」
「なんか、ストレスなのかな……。」
「日に日に老けてくよね。」
「てか、怖い…。」
とコソコソ話す受付2人の声が入ってくる。
ーーー老けてくよね?私が?何言ってるのよ。怖い?誰が?私が?ふざけるんじゃないわよ。くだらない話ししかしないくだらない人間ばっかり。全員死ねばいいのに。
杉田夕実は、怒鳴り散らしたいほどの感情を拳を握りしめてやり過ごしている。
自分がこんなに惨めなのは誰のせいなんだと考える。直哉がいなくなったから自分は惨めなのだと。
勝手にいなくなって、こんなも私を追い詰めるのかと唐沢直哉に憎しみの念を抱き始める。
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