別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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「できないでしょ?ねえ!折り返す判断もできないの!?あなた事務に向いてないわよ!!やめてしまいなさい!もう来なくていいわ!!!」 新人を怒鳴りつける夕実の声はフロア中に響いていた。完全なるパワハラだった。 新人は、ただ表情を殺し電話の相手に折り返す旨を伝えた。何度目の催促で、何度目の折り返しか……。そんな文句を空虚な心で聞き流し、電話を切った。 「大丈夫?」 新人の隣に座る社員が新人に気を遣っている。 「もう無理なんですけど。」 正直に苦痛を訴える言葉。 「泣かないで。ランチ行こう。奢る。」 新人とその周りの社員たちがフォローしあっている空気が夕実にはおもしろくない。 直哉のいない直哉の机を蹴り飛ばしたくなる。 夕実の苛立ちはピークでどこいてもそれが治ることはなかった。 「ふざけんじゃないわよ!!仕事ができないあんたたちが悪いんでしょうが!!!」 夕実は自分の机を叩いて新人とその周りに目掛けて怒鳴り声を上げ息を荒げ、そこに居る全員を睨みつけた。 直哉の机に貼られた大量の折り返し待ちのポストイットを剥がし、全てゴミ箱に捨てた。 「杉田さん。午後から有給取ったら?最近、疲れてるんじゃないかな……。体調を見て、明日も休んでもいいですよ?どうでしょうね?」 夕実に優しい口調で声をかけて来たのは、判断が遅いと夕実が馬鹿にしていた神保課長だった。 杉田夕実は、神保課長の言葉に泣き崩れその場にいた社員たちは、防災無線から流れる12時のサイレンに潮が引くように部屋から出て行った。 ーーー私がおかしいとでも言いたいの?おかしいのはあなたたちでしょ!! 夕実は泣けば泣くほど惨めだと、そう思いながらも嗚咽を止めることはできなかった。
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