別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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杉田夕実には弟がいる。歳は唐沢直哉のひとつ上。夕実の両親は弟の雄次を優先して子育てしていた。 夕実の父には離婚歴があり、夕実がまだ何もわからない頃に夕実を連れて再婚した。 父親の連れ子である夕実は、家族の中で最も我慢させられる存在になっていた。 『夕実ちゃんの服男の子の服?』 と、子どものコミュニティに中で女子から言われるのは当たり前。両親は弟が着られる服を選んで夕実に着せていたのだ。 だから、小学生の頃には、女の子らしい服装に憧れつつ女の子らしい服装の周りの女子たちを羨む気持ちから、女の子らしい女の子に敵意を抱くようになった。 中学、高校は、地味で静かなモブというイメージでキラキラした女子たちからは遠ざかりながら過ごしていた。 夕実は別に今ヒエラルキーが低くてもこの先、自分を誰も知らない大学に進学すれば何も問題はないと思っていたのだ。 だが、女は結婚して専業主婦にでもなるのだという考えは夕実の両親の間に根強く残っていて、両親は大学進学は弟の雄次だけと考えていた。 夕実には、高校を卒業したら適当にどっかその辺で事務員の仕事でもやって貰えばいいと考えていて、夕実に対し、少しでも家にお金を入れて今までかかった養育費を返して欲しいと思っていたのだ。 夕実は、そんな両親を軽蔑した。 夕実は、夕実を唯一“本当の孫”と言って可愛がっていた祖父の支援、そして奨学金と特待生制度を使い地元から少し離れた国立大学へ進学した。 大学へ行けば両親は近所の人から何を言われたかは知らないが、夕実に対し今までと違った態度をとって来た。 “夕実は自慢の子”そう言って来たのだ。 努力をして大学へ行った夕実と反して、甘やかしてなんでも与えて来た弟の雄次は高校を中退し、その後、何があったのかはわからないが部屋に引きこもって両親の前にも出てこなくなってしまったのだ。 夕実は弟とはあまり話してこなかったため、そのような心理に至った理由は全くわからなかった。 両親は、雄次に対し疲れ切っていて、夕実に電話やメール、ある時は手紙まで送ってくるようになったが、夕実には他人事にしか思えなかった。 弟に全て与えて来たつもりの夕実は、これ以上弟に何もあげたくないと考えた。弟には自分の大切なものを奪われるのはもううんざりだと思っていたのだ。
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