別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

69/142
前へ
/143ページ
次へ
引きこもっているわけではないが今の夕実は、あの頃も今も弟は何を考えて部屋を出て来ないのか少し理解できる気がした。 もう、このまま会社に行かなくても良いのではないかと、自分の名刺ケースを眺めながら夕実はぼんやりとそう思った。 夕実はまた、20歳の頃のように性風俗嬢の斡旋でもやろうかと考える。男の欲を相手に取れば商売はちょろい。 その辺にいる頭の悪い女を売り捌けば簡単に儲かる。特に未成年は優しく声をかけて騙せば簡単に男に向かって脚を開いた。結局、女の子らしい服を着た女は尻も頭も軽いバカしかいない。と、二十歳の頃の夕実は思っていた。 両親の借金返済のためと言いながら働きに来た未成年に対しても男とヤりたいだけのクソ女だと思っていたから口車に乗せて金をこそぎ取ってやったのだ。 男も女も夕実が出会った人間は、夕実が思うに全員自分以下でしかなかった。 「バカなくせに生意気なのよ。全員ふざけてる。」 スマホをいじれば探偵(つまり、俺)から受け取った唐沢直哉と比嘉結菜の浮気現場の写真が目に飛び込んできた。 「この女がいちばん許せない。私の直哉を返してよ。」 夕実は、いつだったか忘れたが冷蔵庫に直哉が放り込んで行った缶酎ハイを手に取った。 夕実が妊娠しているとまだ知らない頃。コンビニのクジで当たったからあげると言って置いていったのだ。 「直哉は一緒に飲もうって、言ってくれなかった。直哉…もう、私とお酒を飲むのも嫌だったの?」 缶酎ハイを持って吐き出し窓の前に座る。 「男は全員くだらない。女を容姿でしか選んでない。直哉だってそうだった……。比嘉結菜は、かわいい顔をしてかわいい服を着ているもの……あんな女についていく男なんて碌なもんじゃないわ。」 夕実は、缶酎ハイを開けて煽るように飲んだ。お腹の子のことなど、微塵も考えず。 『我慢しなさい。お姉ちゃんなんだから。』 母親の言葉が脳にこだまする。 「私が何を我慢する必要があるのよ!!」 夕実は、半分以上残っている缶酎ハイを壁に投げつけた。 中途半端に甘ったるい薄桃色のアルコール炭酸水が飲み口から床に広がっていくのが見えた。 思い出すのは、アイスティを浴びた比嘉結菜の薄い笑み。 夕実は込み上げてくる怒りに身を震わせた。 「ぶっ殺してやる!あの女!!」
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加