別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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精神的に不安定な自分を疑わない夕実は何もかも他人のせいにするようになっていた。 中でもいちばん気に入らないのが比嘉結菜だ。 ーーーあんな女ひとり、いなくなったって世の中にとってなんでもないわ。 怒りに任せその足でやって来たのは比嘉結菜のランジェリーショップだった。 ズカズカと店に踏み込んで行くなり、数原のいるレジカウンターを両手で叩いた。 数原は夕実に驚くでもなく、すんとした顔で夕実を見た。 「比嘉結菜は?」 「は?」 「あの女出しなさいよ!!私の直哉を返しなさいよ!!あなたもグルになってるんでしょ?!」 杉田夕実の手には、包丁が握られていた。 だが数原は、やはり驚きもせずカウンターでめくっていた分厚いカタログを閉じ、固定電話の子機を手に取った。警察を呼ぼうとしているのだ。 「物騒だね。おばさん。男に逃げられて欲求不満なの?バイブでも突っ込んどけば?」 カウンターの引き出しにあったテスターを夕実の前に転がした。 「なんなの!?こんなもの!!こんな下品なものいらないわよ!!!」 夕実は包丁を数原に向けた。 「比嘉結菜を出しなさいよ!!!」 大声を荒げる杉田夕実に数原はため息をついた。 数原は、目の前にいる杉田夕実のことをこの世でいちばんのクソだと思っている。 比嘉結菜(数原幸乃)は、杉田夕実にいいように使われて、“男は不潔で悍ましく、女を性処理の道具にしか思っていないもの”と男に嫌悪感を抱いていた時期があった。 だから、比嘉結菜は男とは体だけで恋愛なんてする必要など全くないと考えている。 比嘉結菜にとって男は他人のものであるのがちょうどいい。奪うのではない、ちょっと借りたくらいのもの。 それが、数原が知っている比嘉結菜(数原幸乃)の恋愛観。 だが、直哉と会っている期間の比嘉結菜については、なんだか恋でもしているように見えて、少しくらい姉にもそういうお花畑みたいな男がいいと数原は思っいた。 数原にとっては顔も名前も知らない男だが、姉を癒してくれる男がいることは心から嬉しかった。 「おばさんが、勝手に逃げられたくせにユキちゃんのせいにするのおかしくない?」
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