別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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夕実は、疑問に思った。 数原は、比嘉結菜を“ユキちゃん”と呼んでいる。 「私が会いに来たのは、比嘉結菜よ?ユキちゃんて誰なの?」 数原は比嘉結菜から、夕実が初めて店に来た日に杉田夕実の素性を聞かされた。 杉田夕実が、自分が斡旋していた未成年のことを全く覚えていないことに数原は驚いたが、比嘉結菜は確かに顔と名前を変えているから、本人であると気づかなくても当然かと少しだけ納得した。 もっとも、それが比嘉結菜の狙いであったのは間違いがない。 「おばさんさあ。昔、ユキちゃんのこと散々いじめたくせに覚えてないわけ?」 数原が眼鏡越しに睨みつけるその目を見ると、夕実は背筋が凍りつく思いがした。 ーーーこの顔、誰かに似ている……。 「ユキちゃんから散々金巻き上げといてさ。まだ嫌がらせしたんねえのか?なあ、クソババア。」 杉田夕実は、“ユキちゃん”を記憶から呼び起こし青ざめた。まさか、比嘉結菜が自分がボロ雑巾にした数原幸乃だというのかと。 「あなた、何を言ってるの?そんなわけない。比嘉結菜が私から奪ったんじゃない!!!あんたも殺してやる!!!」 杉田夕実が振り回した包丁は何かを切りつけた。 数原ではない。数原は、カウンターに垂れている血液を凝視して、それからその元を探った。 「……えっと、この店。男性用の下着もあるって聞いて。買いに来たんですけど……。こういうお店、初めてで……。」 目の前の若い男が、血液の持ち主だとわかるには時間はかからなかった。 数原にはこの若い男が嘘をついていることも瞬時にわかった。何度かボクサーパンツを買いに来ていて、いつも比嘉結菜が案内していたのを見ていたのだ。
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