別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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まさか、自分の身代わりに包丁で切りつけられたのかと数原は、言葉が出てこなくなってしまっている。 「…直哉!?」 目を見開いて大声を上げたのは杉田夕実だった。服装が唐沢直哉らしくないだらしないスウェットジャージに黒いワークパンツで、髪も短くなっている。そんな男が直哉だとわかったのは声を聞いたからだった。 「…どうして、こんなところにいるのよ直哉。比嘉結菜に会いに来たの?どうして比嘉結菜なのよ。あんな女どこがいいのよ。ねえ、なんでよ?!直哉。」 夕実は直哉を怪我させたことよりも、自分の目の前から消えた直哉が比嘉結菜の店に現れたことの方がショックだった。 やはり、直哉は比嘉結菜の近くにいたのだと勝手に思い込んだのだ。 直哉の服装が様変わりしてしまったことも、どういう心境の変化なのか全く理解できない。 一方で数原は、目の前の誰だかわからない男の腕から流れている血液が、永遠に止まらないのではと怖くてたまらない。 なんとか出血を止めようと、その腕をカウンターの下にたまたまあった延長コードを無我夢中で縛り始めた。 直哉は数原の行動に若干驚きつつ 「ゆいちゃんは、うちに戻ってもらった。一人で怖かったね。ごめん。」 気遣って、小声でそう言った。
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