別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

73/142
前へ
/143ページ
次へ
直哉は夕実に、背を向けたままにしていた。 「ねえ、直哉!!」 夕実はもともとヒステリックに怒鳴ったり、喚いたりする性格だったが、包丁を振り回すまでに至ったのは、直哉だけのせいなのだろうか。 妊娠によるストレスが、そうさせているのだろうか。夕実の顔を、どんな顔で見ればいいのか直哉は迷っている。 「…直哉、…答えなさいよ!…なんで黙って……ぅう。……あっ。…いった、…。あっ。ぅうう。」 夕実が包丁を床に放り投げてお腹を抑えて蹲る。息も絶え絶え苦しんでいる。 「夕実さん?」 夕実に1人の女性が駆け寄って来た。 「大丈夫?夕実さん?」 夕実さんは、この女に助けられるのだけは絶対嫌だと思いつつも下腹部のどうしようもない激痛に耐えられず、近寄って来た比嘉結菜にその身を預けるしかなかった。 「梅乃。救急車お願い。」 比嘉結菜は必死に夕実の腰をさすっている。 直哉は、自宅に避難させたはずの比嘉結菜が自らの危険を顧みず夕実を助けようとしているその姿に自分を情けなく思った。 夕実は直哉の妻であって、本来なら直哉が比嘉結菜のしていることをすべきではないかと。 「なんで、こんなことするの?私が惨めじゃない。」 夕実は憎しみの言葉を比嘉結菜にぶつける。助けられても感謝のひとつしたくないのだ。 比嘉結菜は、そんな夕実の腰を摩り続けている。 「私は夕実さんに自分を惨めだと思わせたいから、こうしています。 夕実さんが私に助けられるなんて屈辱以外他になにもないでしょ。」 夕実は、怒鳴り散らしたいところだが、お腹の痛みでどうにもできない。 顔と背中に脂汗を滲ませ、夕実は意識を失った。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加