別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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病室で目を覚ました杉田夕実は放心状態だった。 処置を担当した医師から妊娠21週までは流産はあり得ることで、母体側の問題というより受精卵になんらかの染色体異常があってのことだと聞かされた。 納得のいくような、いかないような。モヤモヤした気持ちだった。 乃村の子ではあるが直哉の子であると嘘をついて胎内に宿していた命が痛みを伴い消えていったのだ。痛みを伴うのは産む瞬間だと思っていたのに。得るはずだったものを失った。 ーーー子どもさえ、思い通りにならない。私はいつも失ってばかり。直哉も結局、比嘉結菜のそばにいたんじゃない。裏切り者。 夕実はひとり、ぼんやり天上を眺めて直哉に対し憎しみを増幅させる。 直哉の腕に怪我を負わせたことなど全く気にも留めていない。謝罪の念は一切無いのだ。 それに、失った子どものことも夕実にはもう通り過ぎていくものになりつつあった。 ーーー直哉が私の男でないのなら、どこまでだって不幸になればいい。1人だけ幸せになるなんて許さない。 直哉の不幸を願いながら、天上を睨みつけている。 そして、思い出す。直哉は借金地獄の最中にいることを。自業自得だと、夕実は笑みを浮かべた。 夕実には直哉の借金を肩代わりする気などさらさらないのだ。直哉が不幸になることを想像し、いい気味だと思った。 夕実を訪ねて来た深池祐樹は、アンゼンローンの人間で。アンゼンローンは深池組と繋がりがある。そんなところに2000万円にも及ぶ借金をしているのだ。直哉は地の果てまでだって追いかけ回されるだろう。 「……滑稽ね。」 杉田夕実の休んでいる病室にノックが響いた。 夕実は微かに望んでしまう。ドアを開けるのが唐沢直哉なのではないかと。 「…はい。」
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