別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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気狂い(きちがい)はどっちなのよ!!あんたたちでしょ!!」 「……っひっ、ぐっ、…ぇぅぐぁっ…ひっ…。」 息が細くなっていく母親の口から涎が垂れる。眼は天眼になり充血した眼球が涙を蓄えている 夕実はその姿を目にし、ふと我に帰る。 自分が手をかけている母親が急に悍ましく感じその体をベッドに投げつけた。 「母さん、しっかりしろ!母さん!!」 父親は、赤黒い顔をした母親の肩を揺さぶった。 「ナースコールでも押して看護師でも呼んだらいいでしょ?」 父親は、夕実を不審な表情で見つめた。 「夕実、なんてことするんだ。父さんの大事な母さんに。」 「は?笑わせんじゃないわよ。」 確かに夕実の父親は夕実の母親を大切にしていた。しかし、夕実にとって両親はどちらも毒親で。母親のことは手を離さずに殺して仕舞えば良かったと父を見て思う。 「……夕実。実は、少し前にアンゼンローンていう金融会社の人がうちに来たんだ…。」 「……え?」 「夕実、借金してるんだって?」 何がどうなって、直哉の借金が夕実の借金になったのだろうと夕実は混乱する。 「子どもの借金は親が払えって言われたんだよ。」 夕実の実家は、2000万円も返済できるような裕福な家ではない。 「それに夕実が昔、何か商売をしていた時の家賃を支払っていなくて、それも請求されたんだけど……。」 父親が、夕実の顔を見ずにジャケットの胸ポケットから、封書を出した。 「これが請求書なんだ。父さんたち、雄次をどうにかしたくて今必至で。夕実にはかまってられない。」 杉田夕実は、また何か自分が弟の犠牲になる気がした。 「……やめてよ、何?またなの!?また私から何か奪う気なの!?もうやめてよ!!!!」 「夕実の望んだ通りに、父さんたちもそうしようと思う。」 夕実は確かに両親と距離を置き、両親を拒んでいた。 「夕実。お前とは家族の縁を切る。 借金も家賃も自分でどうにかしなさい。父さんたちはもう、夕実に一切関わらない。金輪際、もう会うことはない。うちにも帰ってこないでくれ。」 しかし、杉田夕実は家族と縁まで切ることは望んでいなかった。
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