別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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それから数日。 夕実は、会社に行くこともなく、廃人のように一日を過ごしていた。 宿していた子どもは、跡形もなくいなくなったし厚くなっていた胎盤もこそげ取られた。 煤けた指輪を眺めながらアルコールを口に運んでいる。ひっきりなしに浴びるように。酒の種類にはこだわりもない。コンビニやスーパーで買える適当なもの。胎児がいる間我慢していたものを一気に解放するように。 胎児が流れたその日から体のことなど何も考えず水の代わりにと言ってもいいくらい酒を飲み続けている。アルコールが無くなればコンビニでも、スーパーでもドラッグストアでも酒屋でも。 足元をふらつかせながら、徘徊にも似た様子で街の中を彷徨いて(うろついて)いる。 支払いは全てクレジットカードだ。無駄に酒を飲み、気を失って、起きたらまた酒を飲む。体にアルコールの抜ける隙を作らない。 気分が落ち込むのがとにかく嫌だった。 会計をしようと財布を開ければ、クレジットカードを取り出せばいいだけなのに、小銭入れのボタンをはずし、硬貨をバラバラとばら撒いてしまった。 周りのお客がザワザワし始めたり、ため息をついたり、汚いものを見る目で夕実を見たりする。 だが、 「……あの、大丈夫ですか?」 「ほっといてよ!!!」 たまたま声をかけてくれたドラッグストアの薬剤師にさえ、夕実はこの態度だった。 顔色は明らかに悪かった。目の下にはクマがある。 店のカゴいっぱいに買った酒をビニール袋にパンパンに詰めて持ち運ぶ。 途中、道端に座り込んで1本空けたと思ったら、また1本開けて飲み始めた。 このまま、この場所で急性アルコール中毒になって死んでしまいたい。家で孤独に死ぬよりも、いくらか人通りのあるこの場所がベストじゃないかと夕実は考え始めていた。 「いいのよ、私なんて。…もう死ねば……。」
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