別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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裁判所へ唐沢直哉の自己破産の申し立てをするため、弁護士に俺の事務所に来てもらった。 知り合いのドS探偵のツテを頼ってよく頭の働く弁護士を紹介してもらった。 唐沢直哉の腕の傷はまだ治っておらず、指は動かないし、腕はつったままになっている。 「唐沢さん、不自由そうですね。」 弁護士は、さわやか長身優しい顔系イケメンの痩せ型30代男性。名前は岩屋(いわや)智彦(ともひこ)。ブレーン法律事務所の弁護士で民事裁判は百戦錬磨らしい。 「澤木さん。」 「え、俺?」 「コーヒーを淹れてください。」 なぜ? 「唐沢さんが今にも寝てしまいそうです。時間帯のせいか飲んでる薬のせいかわかりませんが。」 確かに、唐沢直哉の目は3分の1しか開いていないし岩屋弁護士の話を聞きながら、うつらうつらしていたのも気になった。 「……すみません。」 唐沢直哉が瞼を擦るのを見て仕方がないと思った。 唐沢直哉が飲んでいるのは抗生物質と痛み止め。コーヒーを飲んだところで眠気が覚める保証はないが。 「はい、どうぞ。」 唐沢直哉と岩屋弁護士の前、それに俺の席にコーヒーを置いた。 「ありがとうございます。」 岩屋弁護士は、唐沢直哉にコーヒーを飲むように促してから自分が先に口をつけた。 「澤木さんは、こんなに美味しいコーヒーをいつも飲んでいるんですか?」 俺はコーヒーが好きで、豆は自分で挽いている。でも、淹れているのは機械だ。 「ハリオはやっぱりいいよね。」 「豆はどこで買ってるんですか?」 「佐藤珈琲っていう、近くの豆屋。(がん)ちゃんも今度行く?」 「……がんちゃん?」 岩屋弁護士は、唐沢直哉の眠気を覚まそうと本題から逸れた話を俺に振ったに過ぎないのだが。ついついコーヒーの話につられ会話を緩くしてしまった。 「あー、岩屋さんだからね。岩ちゃんもありかなーって。」 「緩いですね。澤木さん。まあ、嫌いではありません。私は、澤木さんを澤ちゃんとお呼びすることにしましょう。」 「あー、いいかもねー。岩ちゃん、澤ちゃんでコンビ組んじゃう?M-1とかさ、出てみようか。」 「出ません。」 「だよね。わかってた。」 岩屋弁護士がコーヒーを飲みながらノートパソコンを開いて俺と唐沢直哉に見せてきた。
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