別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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杉田夕実は、唐沢直哉を泳がせることにした。自分の中の水槽に閉じこめておくことはしない。 日常はなんら変わらぬように。 水面下では探偵(つまり俺)を動かし誰にも暴かれたくない秘密を探らせ、復讐に繋げる糸口を探っている。 会社では、 「おはよう、唐沢くん。」 と、いつも通り。 一方、会社帰りに夕実宅へ寄った直哉に対しても。 「お疲れ様、お帰り。ご飯、まだできてないからお風呂先にどうぞー。」 なんて、家庭を想像させるような気配りを見せたり。 ここに復讐心があるとは、浮気の証拠を握っているとは微塵も感じさせない。 変化は直哉に訪れた。 「じゃあ、俺帰るね。愛してるよ夕実。」 と、直哉が比嘉結菜宅へ向かうと想像できる言葉を残し、どんな時間でも夕実宅を出ていくようになった。 どんなにアルコールを飲ませようと、直哉は夕実宅に宿泊することはなくなったのだ。 体を交わらせた後、すぐにシャワーを浴び帰り支度をしてものの3分で夕実の自宅を出て行ってしまう。 直哉の中にうっすら“別れ”が選択肢に上がってきていることは容易に想像できた。 好きでもない男に女の体は熱を帯びない。 夕実の場合、直哉とまぐわえば、まだまだ熱を持つ。愛している…それは自分の方がと確信している。 一方で直哉は、夕実にはやはり反応が鈍くなっている。潮時だとそう思ってきているのだ。 比嘉結菜には、どんな時でも興奮冷めらやない状態になれるのに。 直哉が、自分の心が比嘉結菜をものにしたいと思い始めていることに気づくにはそう時間はかからなかった。 比嘉結菜は心など求めていないと知りながら、比嘉結菜に溺れていくのを止められない。 「杉田さん、あのさ。」
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