別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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枕元には充電のケーブルが繋がったままのスマホ。ベッドの下に下着と自慰行為の玩具が転がっている。玩具についてはあまり唐沢直哉の目には触れさせない方が良いだろう。 「杉田夕実は誰かに誘拐されたんじゃないか。」 「誘拐?誰が夕実のことなんか……。」 「多分だけどアンゼンローンの深池。直くんの担当だったんでしょ。杉田夕実のこと痛め付けて借金のカタに連れて行ったんじゃない? 歯の1本2本折って気を失わせて攫ったんじゃないかな?やっぱそりゃあ、平気で暴力振るうよね、アイツら反社だから。 こうなったの誰のせいだと思う?」 唐沢直哉の顔をじっと見れば、目を逸らされた。 床にある歯は2つ。おそらく前歯。 「でも、誘拐と決まったわけじゃ……。今いないだけで……。近所で買い物とかしてるとか……。これだって、歯じゃないかもしれないじゃないですか。」 血の塊り方から見るに恐らく3日は経ってる。 「じゃあよ。警察にDNA鑑定お願いしてみる?そんで、この血痕が玄関に続いてるのも見てもらって」 「…なんで、そんなことばっか言うんですか?」 「なんでって?」 「簡単に事件みたいに言わないでくださいよ。思いたくないんです。俺のせいで夕実が誘拐されたとか。」 唐沢直哉の痛い方の腕を思いっきり掴んだ。 「…いったっ。」 「お前よ。いい加減にしろよ。お前の腕が痛いのは誰のせいだよ?巡り巡って自分のせいだよな。もう逃げんのやめろよ。な?」 「……。」 「わかんねーの?認めたくないの?」 唐沢直哉が、冷たい目をしながら口角を上げたのが見えた。 「澤木さん。」 「あ?」 唐沢直哉がしゃがみ込んで部屋を見渡した。 「俺、やっぱり離婚しません。」
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