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《3》
入院して五ヶ月。私の身体は徐々に弱くなってきている気がする。陸は少しずつ歩けるようになってきている。そろそろ退院するのかな。もしそうだったら彼が元気に去る姿を見送りたい。あと...
私は陸がリハビリから戻って来るまで絵を描いていた。陸が視界に入ってくるまで気づかなかった。
「おかえり」
「ただいま、何描いてるの?」
「通っていた小学校の裏にある草原」
「そうなんだ」
「木が一本だけ立ってる草原。小学校の頃からよく行ってて。たまに、木の下で本を読んでいる子がいたんだけど。話しかけるのが怖くていつも遠くから見てたんだよね」
木が一本だけ立っている草原。その一本の木の下に座っていた一人の少年。遠くから見ていたけれど髪色は白かったのは覚えてる。まさか陸じゃないよね。
「それって青水小学校?」
「そう!もしかして陸も?」
「うん、そうだよ」
まさか陸と同じ小学校だったなんて。でも陸がいる事なんて知らなかった。白髪の男の子の噂は聞いたことあるけど、あれは陸だったんだね。
そろそろ死ぬかもしれない私。院長以外に誰にも言わなかったことを陸に言いたい。話を聞いてほしい。
「私ね」
急に静かになった私を陸が私の顔を見た。私も陸を見る。彼の顔は透き通っていて、綺麗で。私を見つめる彼の顔から目を離すことができない。
「私ね、小学校卒業してから親の転勤で遠くの街まで引っ越してて。だから、大好きだったあの草原にも行けなくなっちゃってさ。癌になって、もし死ぬなら、小学校の頃まで生まれ育った街で、大好きな街で死にたいって思って。最初は親に反対されたんだけど、どうしてもって私がわがまま言ったからここに戻れたんだけど。私の治療費も払わないといけないからって、引っ越した街に残って、私だけここに戻ったの」
陸はただ静かに、私の話を聞く。
「だから、毎日が忙しくて忙しくて。病院まで来て私をお見舞いしたことが一回もないの。ここの病院に移動してもう五ヶ月になるんだけど、一回も親が顔を見せに来たことがないの」
「連絡は?」
「週に二、三回しか話せなくて。しかもほんのちょっとだけで。大した会話なんてできない。医者に今どんな状態だって言われたことを言っているだけって感じ」
「...は?」
「陸?どうしたの?」
「おかしいだろ!青空の親はおかしいぞ!」
さっきまで静かだった陸はどこに行ったのって聞きたいぐらいに陸は大きな声を出した。
「俺なんて...俺なんて小さい頃に両親二人共事故で死んじまったけどさ!わかるよ!青空の親はおかしいってこと!いくら仕事が多くても、忙しくても、休暇なんてあっただろ!自分の娘が癌でもうあと余命一年もないって言われてるのに、青空が言ってたけど、いつ死んでもおかしくないのに、この五ヶ月で一回も会いに来ないとかおかしいだろ!」
え...事故で両親をなくしてしまったの?
陸は歯を食いしばって、泣いた。陸が泣く姿なんて見たくない。ねえ陸、なんで泣くの?私まで泣きそうになるよ。いつもの優しい笑顔を見せてよ。
「陸...泣かないでよ」
「だって...青空が、親が会いに来ないことが悔しくて...悔しくて」
私のことで泣いてるの?陸、陸。なんでそんなに優しいの。
「陸...陸は優しいんだね。でも、もう慣れちゃってるから大丈夫だよ」
慣れちゃ駄目だ。こんなに悲しいこと、慣れちゃ駄目だってわかってる。でも慣れてしまった。
「青空...」
「でも、私は死ぬ前に一つだけしたいことがあるの。親が会いに来ない代わりに、一つだけ絶対にしたいことがあるの」
「それって何?」
「もう一度、あともう一度だけでいいから。あの草原に戻りたい」
あの美しい空の下にある草原に戻りたい。本当に後一度でもいいから。戻りたい。
「じゃあ、二人で行こう。その草原に戻ろう」
その言葉で私は貴方への気持ちがはっきりした。
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