運命って残酷。

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ぼんやり考えてしまっていた私は、亜里君の言葉に驚いた。 突然、何を言い出すかと思った。 「そんなに驚く事かな?」 「い、意味がわからない」 宝船をいっきに飲み干すと、少しだけ視界がグラリと揺れた。 「マスター、おかわり」 「はいはい。あら、珍しい。瑠花ちゃんは、いつもゆっくり飲むのに……」 「すみません」 「いいの、いいの。今、作るわね」 「はい」 マスターと話し終えた私を亜里君は見つめている。 その瞳が高校生(あのころ)と同じに見えるのは、視界がグラグラしているせい? 何故か、亜里君がキラキラと輝いて見えてくるのも何? 「お待たせ」 「ありがとうございます」 「ゆっくり話してね。私は、向こうと話すから」 「はい」 「亜里ちゃんは、何もいらない?」 「じゃあ、ウイスキーロックで」 「わかったわ」 マスターは、丸い氷を入れたグラスにウイスキーを注いで亜里君に差し出した。 亜里君は、さっき飲んでいたお酒を飲み干してマスターにグラスを渡している。 「じゃあ、ちょっとごめんね」 マスターは、申し訳なさそうな顔をして私達の前から姿を消した。 「で、さっきの答え教えて」 「答えも何も私は結婚してますから」 「それは、俺だって同じだよ。だけど、瑠花ちゃんは川井美和子との事を知って嫌な気持ちになったんでしょ?」 「なってません」 まただ。 また、亜里君がキラキラと輝いて見える。 「目に涙溜めるぐらい嫌なんじゃん」 「えっ?」 亜里君の手が私の頬に触れた瞬間。 スッーと頬を暖かいものが流れた。 亜里君がキラキラしてたのは、私が泣いていたから? 「やっぱり、瑠花ちゃんはまだ俺が好きなんだよね?」 「そんな訳ないから」 マスターが言った言葉が甦る。 ……。 確かにそうだ。 成就しなかったから、まだ心の奥底に引っ掛かっている。 この引っ掛かっているものを取り去りたくて、再会して不倫するんだと思う。 あの頃よりハードルが下がった相手は、今の私を受け入れてくれるから。 大人な関係を維持できるから。 煩わしいって作業をすっ飛ばす事が出来る相手。 「ちょっとトイレ行ってくる」 「だ、大丈夫?」 「大丈夫、大丈夫」 ずっとロックで飲んでいた亜里君は、ふらふらとしながらトイレに消えていった。 今の間に帰ればいい。 そしたら、もう二度と会う事はないんだから……。
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