【第一章完】昔の恋は厄介

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「亜里ちゃん、大丈夫?」 「大丈夫、大丈夫」 「もう、あれ飲んだら帰りなさい。手が不自由なんだから」 「そうするよ」 マスターは、亜里君に近づいて話しかけていた。 亜里君は、ふらふらと席に戻ってくる。 「大丈夫?」 「大丈夫、大丈夫。楽しくてつい飲みすぎちゃっただけだから」 亜里君がふいに渡してくる言葉に胸の奥がギュッと掴まれる。 「瑠花ちゃんは、今、幸せ?」 「はい」 「そっか、そっか。俺は、今、不幸せだわ」 「えっ?」 「ごめん、ごめん。今のは、嘘だから」 「そう」 「タクシー呼んで欲しいんだけど」 「あっ、私が呼ぶよ」 「ごめん、じゃあ、お願い」 「うん」 店内を出てタクシーを呼んでから店に戻る。 「15分ぐらいでくるって」 「そう。ありがとう」 「うん」 「あのさ」 「な、何?」 「また、飲めない?来週も」 普段なら断るのに、頭がくらくらしているからだろうか。 それとも、高校生(あのころ)の恋を成就させたいからだろうか。 私は、亜里君に「いいよ」と言ってしまった。 これから始まっていく絶望も知らずに……。 「じゃあ、来週の木曜日に待ってる」 「わかった」 カランコロン
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