【第一章完】昔の恋は厄介

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「お迎えにきました」 「はい」 「あら、大丈夫?瑠花ちゃんが呼んでくれたの?」 「はい」 「ありがとね。亜里君、大丈夫?」 「大丈夫、大丈夫」 「私もこのまま帰ります」 「あっ、そうね。時間よね。また、来てね。亜里ちゃん、気をつけてね。見送れなくてごめんね」 「大丈夫、大丈夫。じゃあ、帰るから、あっ、お金」 「代金は、次でいいわよ。どうせ、明日も来るんだから」 「そうだね。じゃあ、ご馳走さま」 「ご馳走さまでした」 「二人共、気をつけてね」 マスターは、店内で手を振ってくれる。 私と亜里君は、タクシーの運転手と共に店を出た。 「じゃあ、また」 「大丈夫?鍵開けれる?」 「大丈夫、大丈夫。じゃあ、来週」 「気をつけてね」 「うん。じゃあ」 タクシー運転手は扉を閉めると私にお辞儀をした。 亜里君は、タクシーの中からヒラヒラと手を振っている。 まるで、高校生(あのころ)だ。 「バイバイ」そう言って亜里君は、 いつも先に帰って行った。 私は、亜里君が帰った校舎を見上げながら千夏が来るのを待った。 話す言葉は変わったけれど、芯は高校生(あのころ)と変わっていないのかも知れない。 「って、何考えてるのよ。早く帰らなきゃ」 私は、急いで家に帰る。 亜里君との恋が成就しなくても、ずっと友達でいたかった。 だけど、その願いは叶わなかった。 それならずっと叶わなくていい。 亜里君との事が終わってから、ずっと、そう思っていたのに……。 【森野】と書かれた表札を見つめる。 私の帰る場所は、絶対にここ!! 修作は私に、想いが成就する事、どんな事があっても一緒にいる事、愛する人はいなくならない事、幸せになる事を……。 教えてくれた人だから。 鍵を開けて、部屋に入る。 音を立てないように和室に入って、服を着替えた。 修作……ごめんね。 もう一度だけ、亜里君と飲むのを許して。 もうこれが最後だから……。
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