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プロローグ
ピピピピ……。
ピピピピ……。
嫌な夢を見た気がした。
今、思うとこの夢は、未来を暗示していたのかも知れない。
それに気づくのは、もっと先の事。
「おはよう」
「おはよう」
結婚10年目を迎えた森野家の朝はいたって平和だ。
私、森野瑠花は、夫である修作を愛している。
私達の家にある、唯一の悩みは、子宝に恵まれない事だけ……。
その悩みは、私に絶望をいつも植え付けてくる。
「パンにバター塗っていい?」
「うん。よろしく」
その絶望が私を外に出させる。
「いってらっしゃい」
「今日は、19時までには帰るから」
「うん。わかった」
「じゃあ、行ってきます」
「気をつけてね」
夫は、7時に出勤して、19時か20時までには帰宅する。
どこかに寄り道もしないし、誰かと飲みにも行かない。
ただ、真っ直ぐ。
私と暮らすこの家に帰ってくる。
修作が浮気をしないのはわかっている。
浮気をする夫だったら、すぐに離婚してる。
優しくて、良い人だから……。
子宝に恵まれなくても、一緒にいたいと思ってしまうのだ。
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