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らぶ、らぶ、らぶ。
それは、私がまだ中学生だった頃の話。
父が転勤族だった私は、両親と弟といっしょに引っ越しを繰り返す毎日だった。中学一年生の秋の時点で、私は既に中学生になって一回回目の転校をしていた。小学校の時には四回転校を経験している。当時お父さんの仕事も忙しかったし、詳しいことはわからないがあっちこっち飛び回らなければいけない事情でもあったのだろう。
そんな、私にとって二回目の中学校。
転入したのは、一年一組だった。
「皆さん、初めまして。松坂理癒です。どうぞよろしくお願いします。その、お父さんが転勤族なのでまた転校しちゃうかもですが、仲良くしてくれると嬉しいです!」
挨拶をするのも慣れたもの。
幸いにして、私は人見知りするタイプではなかったし、新しい環境もわくわくして受け入れられる質だった(どっちかというと弟の方が繊細で、苦労していたことを知っている)。思い切り頭を下げると同時に、長いポニーテールが思いっきり顔を叩くことになる。地味に痛くて呻いていると、それが面白かったのかクラスから笑い声が上がっていた。
わざとボケたつもりはないが、最初は“おもしれーやつ”と思われるくらいがミソなのだと知っている。出来る限りたくさんの子と友達になりたかったので、これはこれで結果オーライなのかもしれないと思ったのだった。
で、そんな私の席だが。
「こんにちはあ、理癒ちゃん」
急遽増設された一番後ろの席。隣に座っていたのが、後に仲良しになる香穂子だった。
小柄で、ちょっとぽっちゃりしていて、ツインテールが似合うとても可愛い女の子だ。にこにこしながら手を振ってくれた彼女は、最初からかなりの好印象だった。
「あたし、竹井香穂子っていうのねえ。仲良くしてくれるとうれしいなあ」
「うん、こちらこそよろしくね竹井さん」
「やだやだ、苗字で呼ばれるのきらーい!最初っから、下の名前で呼んでくれると嬉しいなあ。香穂子、でも香穂子ちゃん、でも香穂子さん、でもいいからー」
「え、えっと、そう?じゃあ、香穂子」
呼び捨てを選んだのは、なんとなく彼女がその方が喜ぶような気がしたからだった。私が彼女を下の名前で呼ぶと、香穂子は頬に両手を当てて喜んだのだった。
「やったやったあ!転校生さんに一番最初に下の名前で呼んでもらっちゃったー!あたし役得う!」
「は、はあ」
フレンドリーだけど、ちょっと変わった女の子。それが、香穂子の第一印象だったのだ。
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