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***
それから、暫く後のことだ。
十月の終わり。香穂子が私に真剣な顔で“相談に乗ってほしい”と言ってきたのである。
「……じ、実はあたし、好きな人がいるのね」
香穂子はもじもじしながら、人気のない階段の影に私を連れ込んで言ったのだった。
「うちのクラスの、えっと、う、梅里くん、なんだけど」
「お、おう……」
それを聞いて、すごいとこ行ったな、と私は引きつり笑いを浮かべるしかなかった。
梅里瞬は、間違いなくクラスで一番人気の男子だった。イケメンでモデル体型の高身長、全国区のサッカー部に所属してリベロとして大活躍中。彼女がいるかどうか、は常に多くの女子が気にしてひそひそ話しているほど。昔は子役もやっていたということで、礼儀やマナーもきっちりわきまえている。
香穂子と釣り合わない、とまでは言わないが。かなり競争率の高い優良物件だ。私は思わず、あれは厳しいよ?と言ってしまった。
「わかってるあろうけど、梅里はモテる。ものすごくモテる。しかも今はサッカーが恋人みたいだし、生半可なアタックじゃ気付いてさえ貰えないぞ」
「うん、あたしもわかってる。でも、どうしても……想いだけでも、伝えたいの。振られたならそれはそれで諦めるから、さ。ねえ、何かいいプレゼントとか、ないかしら。あたしの想いが届くような……届けられるような、一番いい贈り物。それでいて、できれば他の人と違うようなものがいいんだけど」
「まーたハードル高い注文を……」
私は困り果ててしまった。
というのも、私も男の子と付き合ったことは皆無だったからである。男女ともに友達は多いが、男子たちの多くに“女”として見られていないことは明らかだった。彼等に混じってサッカーはするわ、喧嘩はするわ、バスケはするわ、悪戯はするわ。生まれてくる性別を間違えたんじゃないか、と自分でも思うほどである。
まあようするに。真っ当な“男女のお付き合い”以前に、告白された経験もした経験もないわけで。
「……よくわかんないけどさあ」
とりあえず、どっかで見た少女漫画の知識を披露することにする。
「これはきっと価値が高い……というか、宝物?そういうものをプレゼントするのがいいんじゃない?あ、価値が高いっていうのはマジでお金がかかるとか、高価っていうんじゃなくてね。それは相手に気を使わせちゃうし。あとあんま大きなものプレゼントさせても困るし。正直最初は手紙だけでもいいと思うんだけど」
「それは嫌よー!手紙だけじゃ、他の人と差別化できないもん!でも、単純に高いものじゃ駄目ってのは難しそうね」
「中学生が何十万円の指輪とかプレゼントしたらドン引きされるだけだからね?……やっぱり、真心が大事だと思うの。手作りの何かとか、香穂子が一番大事にしているものとか、あるいはこれならきっと気に入って貰えるようなものとか……あああううううん、ごめん、うまく言えないんだけど!」
「うーん……」
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