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かなりふんわりとしたアドバイスになってしまった。案の定、香穂子もかなり困っていた記憶がある。暫く考えた後、彼女は。
「思いつかないわー。……でも、何か特別なプレゼント、考えてみる。あたしにしかプレゼントできない特別なものがいいなあって思うし。やっぱ、フツウじゃ駄目だもの」
この時。
私はすっかり、クラスの男子から聴いたアドバイスを忘れていたのだった。
『竹井には、具体的に命令出した方がいいぞ。でないと、とんでもない方法取るからな、主に善意で』
この、およそ半月後。
またしても急に父の都合で転校になることになった私は、香穂子やクラスメート達に惜しまれつつも学校を去ることになったのだった。
年賀状を書く習慣もなかったので、香穂子との関係も途切れがちになっていた。時々メールやLINEでやり取りをすることがあったくらいである。
そう、これだけならば。中学時代、ちょっと変わった女の子がいました、というほのぼのストーリーで決着したことだろう。しかし、残念ながら本題はここからだったのである。
十年後。私は、一年一組の同窓会に呼ばれることになった。居酒屋でのちょっとした飲み会である。
この時、香穂子は来ていなかった。私は幹事でなかったので、誰が来るのか来ないのかわからず、たまたま近くに座った梅里くんに声をかけたのである。
「ねえ、香穂子って来ないの?竹井香穂子」
彼女の名前を出した途端、その場の空気が凍り付いたことがわかった。え、なに?と思って固まる私に、梅里くん(かなりの美青年に成長していた)が言ったのである。
「知らねえの、松坂?……竹井、死んだぞ」
「え」
「お前が転校してすぐだ。家族だけで葬儀やったらしいから、葬式に招待されてなくても仕方ないっちゃ仕方ないが……」
「え、え?」
困惑する私に、実は、と彼は青い顔で言った。
「あいつさ。お前が転校してすぐ、俺の家にプレゼント送ってきたんだ。ダンボールで、チルドで、なんか変だなって思ってたら、そこには……あいつの、右腕が、入って、て……」
香穂子は、死んでいた。
想いを届けるため、一番大事なもの――小説を書くために必要であるはずの己の右腕を切り落とし、彼に送りつけたのである。それも、恐らく100%善意で。
ものすごく痛かったはずなのに、香穂子は笑っていたという。そして、その傷が元で、命を落としたそうだ。
――そんなバカな。
私は、暫く何も言えなかったのである。だってそうだろう、彼女とはつい昨日までLINEでやり取りをしていたのだ。他愛のない、ごくごく当たり前の話を。
彼女が死んでいるというのならじゃあ、私とやり取りをしていた相手は誰だというのか。しかも、彼女は最後に、私にこのようなメッセージを送りつけてきているのである。
『同窓会かあ。梅里くんも来るのよね?あたしも、行けたら行こうかしら』
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