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「入れて」
妻が喘いでいます。15年振りでした。それは若い日の発散よりはるかに快感でした。行為を終えて妻は満足したのか眠りにつきました。妻はどうして同級生の愛の努力を知っていたんでしょうか。やはり関係をもっていたんでしょうか。疑えばキリがない。しかしあまりにも類似している。私は悩みました。ずっと信じていたお互いを尊重する愛。例え性交渉が途絶えたとしても心が通じ合う愛を貫いていたつもりです。しかしそれが、同級生曰く愛の努力で崩れ落ちたのでした。私は外に出ました。深夜2時です。近くの橋の上で立ち止まり欄干にもたれかかりました。この橋の下は川ではなく谷です。住宅開発を進めるために山と山を繋いだまだ新しい橋です。
「どうかしましたか?」
誰かが声を掛けて来ました。声の方を見るより早く私の両側に張り付きました。
「どうかしましたか?」
今度は女性の声でした。彼等は学生服です。
「いや、大丈夫だよ。それより君等はこんな時間に」
二人は見合って照れ笑いをしました。
「私達はこの近くに住む同級生です。付き合っているんです」
女子の方が積極的に話してくれました。
「それよりおじさん、橋から飛び降りそうだった」
私にはそんな気はありませんでした。しかし不思議に死の恐怖もありませんでした。もしかしたらそんな時に自然と落ちていくのかもしれません。だとするとこの二人が私を止めた。
「ありがとう。でも君等が心配するようなことじゃないんだ」
「でもおじさん、踵浮いていたよ」
二人は見合って頷いた。それを訊いてぞっとしました。死を選ぶ瞬間は自分では見通せないのかもしれません。
「こんなこと訊いちゃ失礼かもしれないが、ゆくゆくは結婚も考えて交際してるのかな?」
女子が交際を明かしてくれたので訊いてみました。そうであるならば、どういう愛の形を目指しているの知りたかった。二人は見合って笑いました。
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