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蠱惑Ⅱ『愛の形』
私たち夫婦は今年で銀婚式を迎えます。家内が67歳、私が古希になりました。家内が37歳、私が40歳の時に知り合い即結婚をしました。家内は普通のOLです。私は営業マンでした。出遭ったのは梅雨明けの蒸した日でした。
「おはようございます。今日も暑いですね」
私は彼女が勤める会社に事務用品を卸していました。事務用品が収納されている倉庫の前が彼女のデスクです。私は倉庫をチェックして不足分を継ぎ足し、新商品を売り込んでいました。
「あなたは外仕事だから暑いのよ。私達は鳥肌が立つほど寒いの」
「それは可哀そうに、もう少しエアコンの温度を上げたらどうです?」
そう言えばいつも長袖を着ていました。背凭れにはマフラーが掛けられています。
「それがそうもいかないのよ。一度28度にしたら、なんか暑いなって騒ぎ出したの。上司だから仕方ないわって諦めたの」
彼女はそう言いながら膝掛を直しました。それがきっかけで食事に誘い二か月の交際で結婚しました。尊重し合う性格は些細なことで喧嘩をしてもどちらかが折れて笑い話で終わります。残念ながら子宝に恵まれませんでした。お互いに尊重し合うとはお互いに我慢すると言う言い方にも置き換えることが出来ます。食事も辛さ甘さのベストのラインが違います。私に合わせれば甘すぎるし妻に合わせれば辛すぎる。結婚しても妻は仕事を続けました。家事も交代交代です。
「どう?」
「美味しいに決まってる」
彼女は私に合わせて自分好みの辛さをセーブしています。ですから私には少し辛く妻には少し甘い味付けになっています。
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