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西域琥国の沙月姫(10)
「ありがとう存じます」
冬籟は「可愛げが……」と言いかけたが、ぐっと口を閉じて先を飲み込んだ。ここに来る途中、「見かけの妝ではなく中身で大人だと勝負して見せろ」と言ったのを思い出したのだろう。
「皇帝の私に政争を仕掛けてくるのであれば、当面は相手の出方を探ってみようかと思っていたんだが……」
「しかし」と卓瑛は思案気に指先を口元に当てた。
「今日の白蘭の話で琥の王族にとって護符がとても重い意味を持つと分かった。ならば義母上のために本物を見つけ出して差し上げたい。そして、それにはあまり時間がない」
「時間がない?」
「実は義母上は篤い病にかかっておられる」
「え? それは……」
「体内に悪い腫瘍ができたのではないかと太医の者たちが懸念している」
「いつ頃から……?」
「父帝の葬礼が済んで私が即位した頃にも軽い異変を訴えておられたが……。それからほどなくして義母上の片腕であり、私も頼りにしていた宰相が暗殺された事件が起きて、ここでがっくりと気落ちされたようだ」
卓瑛とともに皇太后に養育された冬籟の顔も暗い。
「それでもしばらくは宰相を偲ぶための塚を建立なさったり、先帝の廟にお出ましになったりはされていたんだが……」
「義母上は国や私たちを優先してご自身のことはいつも後回しにされる方だった。本当は魂ともいえる護符が気がかりで、それで身体が辛くとも廟に足を運んでおられたのかもしれない……。義母上には残りの寿命を心安らかに過ごして欲しい。だから急いで本物を探し出して差し上げよう」
冬籟もそのことには賛成するが、引っかかることもあるようだ。
「皇太后様のためにそうすべきだ。ただ、我らが真相を探ろうと動き出すとなると、護符をすり替えた者はどう出るだろう?」
卓瑛と白蘭が無言で向けた視線を受けて、冬籟が続けた。
「俺たちが廟にある護符が偽物であると気づいたのは、相手にとって想定の範囲内だったのだろうか、それとも全く予想外なんだろうか?」
犯人は自分以外の誰にも気づかれたくなかったのか、それとも誰かに暴いて欲しかったのか。もし後者なら、いつ、誰に、どのように暴いて欲しかったのだろうか。
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