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西域琥国の沙月姫(3)
双輝石がそのように呼ばれるのは、この石が太陽光のもとでは青く室内の灯火のもとでは赤く二つの色に輝きを変えるからだった。
琥の長い歴史の中でも、このような珍しい石を入手したのは先の西妃すなわち今の皇太后が入内されたときが初めてだ。当時の琥王はこれを娘の入内の瑞祥だと考え、西妃として嫁ぐ娘の護符の虎の瞳にこの石を使ったのである。
同じ双輝石をと注文されても同等なものなど簡単に見つかるものではない。色を変える石があるはずだと探し回って、やっと同じ性質を持つ石を見つけたが、その変わり方は紫色の石が赤っぽくなるか青っぽくなるかという程度ではっきりしない。一応色味が変わるから双輝石であると強弁はできるだろうが……。
その白蘭の説明を卓瑛はじっと聞き終えると「私もほとんど諦めていた。仕方がない。それでも役には立つだろう」と静かな口調で答えた。
白蘭が「役に立つとは、いったいどういう用途にでございましょう?」と問いかけた。
冬籟と卓瑛はすばやく視線を交わすだけで何ごとかを了承した様子で、冬籟が厳しい声で言い渡す。
「あんたには関係ない。あんたが双輝石の件で話があるというから、小さすぎるとか色が違うとかかと思った。少々品質が落ちても皇太后様の護符と似ているのならそれでいい」
「皇太后様つまり先の西妃様の護符に何があったのですか?」
「あんたには関係がない」
白蘭も後宮の秘密を簡単に教えてもらえると思ってなどいない。ここで食い下がる覚悟はできている。
「陛下は双輝石を内密に発注なさった。ひょっとして皇太后様の護符がどこかに消えてしまい、その代わりをこっそり作ろうとしているのではありませんか?」
「だから、あんたが知る必要はないと言っているだろうが」
「もし護符が盗まれたのなら、犯人が分からない限りいくら代替品を作っても同じことが何度も起きてしまいます」
「あんたには関係がない」
卓瑛が軽く手を挙げた。それで冬籟が前のめりになっていた体をすっと引く。よく躾けられた忠犬のようだ。
「白蘭は、琥の大商人戴家といえどもそう何度も双輝石を用立てられないと言いたいのかな」
「御意」
それに、琥の商人にとってはもっと重大な問題がある。雲雀に昨夜あらましを説明したが、皇帝はこの問題の当事者だ。琥商人の立場をしっかりと分かっていただかなくては。
「戴家の次代を担う養女と致しましては次の西妃の入内も懸念しております」
白蘭の口から「次の西妃」という言葉を聞いた卓瑛と冬籟が再び顔を見合わせる。
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