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西域琥国の沙月姫(4)
「四神を授けられた国は、朝貢品に加え相応しい年齢の王女を皇帝に嫁がせることで忠誠の証としております。そして嫁いだ後の妃は故国と董の交流を守護する役割を担うもの。歴代の西妃も東西交易が円滑に営まれるよう華都で董皇帝に直接働きかけてこられました」
特に先の西妃は皇后にのぼって政も取り仕切っていらしたから、隊商たちにとって本当に心強い存在だった。「後宮の愛なき妃」と蔑まれて屈辱的な思いもされたはずだが、琥の民のために西妃の役割を全うして下さったのを白蘭は本当に立派なことだと尊敬している。
「琥の王室の者は護符を大事にします。肌身離さず身に着ける護符には持ち主の魂が宿るもの。ですから皇太后様がうっかり紛失なさったとは考えられず、盗難に遭った可能性が高い。そして護符を盗むとは相当に強い敵意を感じます。そのような不穏な動きがある後宮に次の西妃を入内させて大丈夫かと私どもは案じているのです」
聡明と名高い皇帝は、いきなり白蘭の痛いところを突く。
「逆に私から問うが、今の琥王は西妃を入内させる気があるのだろうか?」
市井の雲雀でも琥王が西の帝国の女にふぬけにされていると知っていた。隠しだてはできない。
「ご存知のとおり、今の琥王は西の帝国の皇族の娘を三番目の妻に迎え、その女の言いなりになっております。されど琥はもともと豪商が集まってできた国家。重臣である商人達は董帝国との繋がりを維持しなければならぬと思い定めております」
琥は決して西の帝国の属国になってはならない。董王朝は朝貢とひきかえに交易の自由を認めてくれるが、西の帝国は東西の人の流れを完全に自国の管理下に置こうとしているからだ。
琥の商人は東のものを西へ、西のものを東へ、互いが珍しいと感じるものを運び、それらを売って対価を得る。隊商を率いて東西を自由に行き来さえできれば我らは誇り高き砂漠の商人でいられる。それなのに西の帝国に隷属してしまえば国境を移動する権利を奪われてしまうのだ。
卓瑛が「重臣たちが董との関係を維持したいと願っているのは分かったが」と頬に指をやった。白蘭はたたみかけるように次の話題を持ち出す。
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