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西域琥国の沙月姫(6)
白蘭が次の言葉を探しあぐねている様子を、卓瑛は興味ぶかそうに見つめながら非礼をわびる。
「他国の姫を姓名で呼ぶのは無礼に過ぎたようだね。その方は字を『沙月姫』とおっしゃるそうだから今後はそうお呼びしよう。この方は冬籟も言うようにとても淑やかな姫と聞く。女君としては優れた美質であっても、西域と董帝国の間で利害を調整するような政治手腕をお持ちとは思えないが?」
白蘭はぐっと身を乗り出した。
「沙月姫にはただ後宮にお入りいただくだけで、西妃としての実務はこの私が回します」
「ほう?」
「わが戴家は琥商人の筆頭。他家からも一目置かれております。私が西妃の代わりを務めても異論を挟む者などおりません。そして、私は女ゆえ後宮の中に自由に出入りし姫と一心同体で行動できます」
野太い声が「は!」と響いた。冬籟だ。
「あんた、自分が後宮出入りの女商人になることで嫁ぎ先に富をもたらす気か?」
卓瑛が「嫁ぎ先?」と尋ね、冬籟が白蘭には許婚がいるのだと説明する。思いがけない方向に話が逸れて頭が一瞬空白になったが、彼らが話している間に一息つく時間ができた。
「陛下、これは私と周囲の私利私欲だけではありません」
冬籟が胡散臭そうな視線を向けてくるが、白蘭は真っ向から彼を見すえ返す。
「西妃が機能し東西交易が順調であること。これは冬籟様のためでもあるのですよ?」
「俺のため?」
「それに董にも恩恵があるはずです。琥との交易は董にも利益をもたらしているのですから」
冬籟がしぶしぶ認める。
「まあ、そうだな。西域の珍しい品々や未知の思想がもたらされて董の文化を豊かにしているから……」
白蘭は片手を顔の前で横に振った。
「いやいや、そういうぼんやりした話ではなく。カネですよ、カネ」
冬籟が天を仰ぐ。
「あんたは小娘のくせに、こまっしゃくれたことを口にする……」
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