西域琥国の沙月姫(7)

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西域琥国の沙月姫(7)

「東西交易から上がる税収はかなりの額。その上、珍しいものが出回ることで経済が活性化し、これも国庫に益をもたらしているでしょう。琥との関係は董の財政の要」  白蘭はびしっと言葉を叩きつける。 「カネが無ければ北域討伐もできません」 「……」 「いつまでも謀反人をのさばらせてはなりません。正統な王家を再興するため、董から兵を遣わすべきです」  冬籟の顔がわずかに歪む。 「兄上の行方が分からないことには……。誰も俺のところに玄武の呪文を伝えて来ないのだから、兄上はまだ生きてどこかで潜伏していらっしゃるのかもしれない」  白蘭は「そろそろ諦めてはいかがですか」と言いかけて言葉を飲み込んだ。冬籟の顔が苦渋の色を濃くしていたからだ。  卓瑛が息を一つ吐いて冬籟の方を向いた。 「兄君でもお前でも正統な毅王家を再興させると私はお前に約束した。それには白蘭の言うとおり資金が必要だ。西妃が来るなら歓迎して琥との交易を栄えさせなければならない」 「西妃を迎えるのか……」 「しかたがない」  二人の男の表情はやるせなさそうだ。どうやら西妃はあまり歓迎されないものらしい。しかしながら、誰がどんな感情を持つにせよ西妃の入内は必要だ。 「西妃が入内すれば琥の商人は自活でき、董の財政は潤い、毅国の紛争も解決できます。様々な立場の利害が一致した結論だと申せましょう」 「よろしい。分かった。西妃の入内は琥の重臣たちが望むよう進めさせよう」  白蘭が片手を上げて制した。 「いえ、しばらく。それには先の西妃様の護符の盗難事件を解決しなければ。魂とも言える護符が盗まれるようでは、次の西妃の身の安全が危ぶまれますから」
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