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西域琥国の沙月姫(9)
「心当たりがあれば、俺たちがとっくにどうにかしている]
「……それもそうですね」
卓瑛が穏やかに説明してくれる。
「我々も可能性をいろいろ考えてみた。まず、単純な物欲しさの窃盗ではないと結論づけた。偽物は双輝石の他は本物同様の作りだ。贋作作りにかかる手間と費用を考えると犯人が金に困っていたとは思えない」
ここで白蘭は、本物そっくりの偽物でごまかせるのなら最初から皇太后様の護符だって模造品を廟に供えておけばよかったじゃないかと思う。それを卓瑛に訴えると、卓瑛は苦笑した。
「琥の人間としてはそう言いたいだろうね。だが、西妃が護符を供えるのは琥と西妃の董に対する忠誠の証だからね。西妃が亡夫に偽物を献じたなど、あってはならない醜聞だ」
冬籟が「琥や西妃に二心ありと疑われるだけでは済まないぞ」と少し苛立たしそうにつけ加える。
「皇太后様の護符が偽物だとばれれば、養子の卓瑛も黙認していたのではないかと疑われる。琥や皇太后様の忠心が疑われるだけではなく、卓瑛だって父帝に孝養の念の薄い反逆児と非難されかねない」
卓瑛も続ける。
「天子には徳がなければならず、徳の中でも重んじられるのが孝だ。私が帝位にあるのは父の息子であることによるのだから、なおさら父帝に孝養を尽くさなければならない」
今上帝が内密に戴家に双輝石を発注した理由はこれか。消えた護符の代わりに、本物の石で新たな護符を作ろうとしているのだ。
「新帝の即位後しばらくは政権も安定しないことでしょう。陛下が親不孝だと言い立てて足元をすくおうとする勢力がいるんですね?」
卓瑛はにこりと微笑む。
「君は若くとも政治を読む力があるようだ。なるほど後宮出入りの女商人として西妃の役割を担おうとするだけのことはある」
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