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マンションの鍵を開けてそのままベッドに倒れ込む。
大学卒業をして暮らしていたアパートからは先月引っ越したばかりだ。
駅からそんなに距離もなくコンビニも側にあって比較的新しいそのアパートは気に入っていたのだが、隣に引っ越してきたカップルが常にプレイの声も聞こえてくるような状態で耐え切れなかった。
聞こえてくる女性の声のコマンドは落ち着かなくて、危うくサブドロップする寸前にもなった。
「あー……そっか……あれ以来クリニックにも行ってないか……」
やたらクラクラする頭を押さえてため息を吐く。
気休めの抑制剤を目にしつつ枕に突っ伏した。
第二性。
そんなものが認知されるようになって、男女の性別の他にDom/Subといういわゆる“ダイナミクス”というものも隠さない人が増えてきた。
Domは“支配したい”、“甘やかしたい”、“守りたい”という欲求を持ち、Subは“服従したい”、“褒められたい”“守られたい”という欲を持つ。
これはいわゆる性嗜好とは異なり、うまく欲が発散されないと自律神経の乱れなど、心身の不調を引き起こすことになる。
そのため、その欲が発現し始める前の小学校卒業と同時に検査がされるようになった。
ただ、ダイナミクスを持つのは一割にも満たない。
どちらでもない一般的なNormalがほとんどだ。
検査結果でSubとわかっても僕は欲がすぐには発現しなかった。
発現したのは高三の夏。
僕はSubといってもほぼNormalなんじゃないかと思われていた頃だった。
急に倒れて運ばれたのがそのダイナミクス専門のクリニックで、それから僕の生活は一変した。
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