episode.5

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「でも、俺は竹谷さんの優しいところ以外も知りたい」 「……え?」  予想しなかった一言に、私は間の抜けた声をあげた。 「俺が図書委員になったのはね、竹谷さんのことをもっと知りたいと思ったからだよ」  由岐は少し覗き込むようにして、私と目線の高さを合わせた。 「竹谷さん」 「……はい」  改まって呼ばれて、私は思わずその場で居住まいを正した。 「俺はこれからも、竹谷さんと色々なことをしたいし、一緒に時間を過ごしたい。図書委員の時だけじゃなくて、教室でも、学校の外でも。でもこれは俺の一方的な気持ちだから、竹谷さんが嫌ならもう二度と近づかないって約束する。だから、教えて欲しい。竹谷さんの、素直な気持ちを」 「私は……」  私はどうしたいのだろう。何て言ったら良いのだろう。 握った手のひらが熱い。由岐の視線が熱い。 「……私は、由岐くんみたいに人から好かれるような人間じゃないし、先輩の言う通り不細工だし、卑屈だし、愛想もないし、何の面白みもないけれど、それでも良いのなら――由岐くんの友達にしてください」  できる限り精一杯の言葉を尽くしてそう言った。誤解のないよう、傷つけないよう、色々考えて慎重にそう伝えたのに、由岐は何だか複雑そうな顔をしていた。 「……俺は、もう竹谷さんとは友達だと思ってたんだけどな……」 「え……」 「早とちりだったのか……」  溜息を吐く由岐に、私は狼狽えた。 「すみません、本当にただの委員同士だと思ってました」 「正直に言われるとすごく凹む」 「だって、由岐くんはちゃんと友達も付き合っている人もいるわけで、こんな私と親しくなる必要なんてないから……」 「いや、付き合っている人なんていないよ。ただの噂だから、それ」 「そうなんですか?」 「そう。というか竹谷さん、また敬語に戻ってるよ」 「ああ、ええと、そうですね。ちょっと混乱していて……」 「そうなんだ。竹谷さん、全然顔に出てないよね。だから俺、嫌われてるのかなって思ってたよ、ずっと」 「そういう由岐くんも、表情が変わらない方なのでは?」 「じゃあ俺ら、似た者同士だね」  秘密を共有するような笑みを浮かべた由岐に、私は「そうだね」と笑い返した。  二人しかいない図書室で、二人だけの思い出がまた一つ。  僕らはまだ、この気持ちの本当の名前を知らない。  でも、きっと僕らは、もう――
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