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「でも、俺は竹谷さんの優しいところ以外も知りたい」
「……え?」
予想しなかった一言に、私は間の抜けた声をあげた。
「俺が図書委員になったのはね、竹谷さんのことをもっと知りたいと思ったからだよ」
由岐は少し覗き込むようにして、私と目線の高さを合わせた。
「竹谷さん」
「……はい」
改まって呼ばれて、私は思わずその場で居住まいを正した。
「俺はこれからも、竹谷さんと色々なことをしたいし、一緒に時間を過ごしたい。図書委員の時だけじゃなくて、教室でも、学校の外でも。でもこれは俺の一方的な気持ちだから、竹谷さんが嫌ならもう二度と近づかないって約束する。だから、教えて欲しい。竹谷さんの、素直な気持ちを」
「私は……」
私はどうしたいのだろう。何て言ったら良いのだろう。
握った手のひらが熱い。由岐の視線が熱い。
「……私は、由岐くんみたいに人から好かれるような人間じゃないし、先輩の言う通り不細工だし、卑屈だし、愛想もないし、何の面白みもないけれど、それでも良いのなら――由岐くんの友達にしてください」
できる限り精一杯の言葉を尽くしてそう言った。誤解のないよう、傷つけないよう、色々考えて慎重にそう伝えたのに、由岐は何だか複雑そうな顔をしていた。
「……俺は、もう竹谷さんとは友達だと思ってたんだけどな……」
「え……」
「早とちりだったのか……」
溜息を吐く由岐に、私は狼狽えた。
「すみません、本当にただの委員同士だと思ってました」
「正直に言われるとすごく凹む」
「だって、由岐くんはちゃんと友達も付き合っている人もいるわけで、こんな私と親しくなる必要なんてないから……」
「いや、付き合っている人なんていないよ。ただの噂だから、それ」
「そうなんですか?」
「そう。というか竹谷さん、また敬語に戻ってるよ」
「ああ、ええと、そうですね。ちょっと混乱していて……」
「そうなんだ。竹谷さん、全然顔に出てないよね。だから俺、嫌われてるのかなって思ってたよ、ずっと」
「そういう由岐くんも、表情が変わらない方なのでは?」
「じゃあ俺ら、似た者同士だね」
秘密を共有するような笑みを浮かべた由岐に、私は「そうだね」と笑い返した。
二人しかいない図書室で、二人だけの思い出がまた一つ。
僕らはまだ、この気持ちの本当の名前を知らない。
でも、きっと僕らは、もう――
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