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episode.2
「竹谷さんは、本読む人?」
何度目かの委員会を経て、私たちは世間話をする程度には打ち解けてきた。
回ってきた昼休みの貸し出し当番の最中、閑散とした室内に由岐の声が何気ないトーンで響いた。
「本ですか? 人並みには読みますかね」
「どんな本読むの?」
「どんな……うーん、推理小説とかは結構好きです」
「てか、前から思ってたけど何で敬語なの?」
あ、また頬杖ついてる。
そんなことを思いながら「いや、なんとなく」と言葉を濁した。カースト上位者には丁寧に接するべきだと思っているからなのだけど、そんなことは口にできない。
「敬語、不都合ですか?」
「不都合っていうか……何か距離を置かれてる感じがする」
「はあ、そうですかね」
私にとっては他人とこれくらいの距離感で付き合うのが当たり前なのだけれど、どうやら由岐とは感覚が違うらしい。むしろ、ただのクラスメイトと業務以外の言葉を交わしている現状がかなり努力している方だ。
あまりにも貸し出し業務が暇なのか、由岐は返却された本の背表紙を撫でながら、何だか面白いことを言った。
「竹谷さんって、他の女子とは何か違うよな」
「……と言うと?」
由岐の白くて綺麗な指先を凝視しながら、私は言葉を返した。
「なんというか、一緒にいて落ち着く。安心感があるというか……家族とか、親しい男友達といる時みたいな気持ちになる」
「……私の性別を疑っているので?」
真顔で冗談めいたことを言ってみると、由岐は普段無表情な顔をくしゃりと歪ませて、そうじゃないよと笑った。その表情は、私の心に響くものがあった。
「竹谷さんって面白いな」
「はあ、どうも。お褒めに預り光栄です……」
「あのさ、敬語やめて普通に会話してよ。クラスメイトなんだし、同じ委員会なんだし」
図書室のドアが開き、手に本を持った生徒が入って来る。
返却受付の準備をしながら、私は特に考えもせずに軽く頷いた。
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