episode.3

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episode.3

 一週間の貸し出し当番も、今日で無事三回目が終わった。  由岐はこれまで真面目に委員会にも当番にも顔を出していたが、今日は当番を無断で欠席した。一人で手が回らないほどではないし、昼休みに何か用事があったのかもしれないし、私は頭の片隅で気にかけつつもいつも通りに業務を遂行した。  由岐が図書室に姿を見せたのは、五時間目の授業の予鈴が鳴る頃だった。 「もう当番の仕事は終わるから、教室に戻ってくれていいよ」  カウンターに無言で入ってくる由岐に、私は散らばった本をかき集めながら声を掛けた。数冊借りていこうと思って見繕っていた残骸だ。数少ない友人にはたまには恋愛小説でも読んで勉強しろと言われるが、推理小説のような論理的な道筋も、明確な動機もない、運命やら奇跡やらで何とかなってしまう恋愛小説が私は正直苦手だった。  何の返答もなかったので本を抱えながら振り返ると、由岐が机に突っ伏していた。 「……どうかした?」  私の抑揚の欠片もない声が、シンと静まり返った室内に霧散する。やはり返事はない。  私なんかが触れるのは非常に申し訳なかったが、緊急事態とみなして彼の肩を揺すってみた。すると少し頭を傾けて、由岐がこちらを見上げた。 「気分が悪いなら、こんなところにいないで保健室で休んだ方がいいんじゃない?」  由岐は言葉の中ほどで目を伏せ、また腕の中にもぐりこんでしまった。伏せた目にかかる睫毛が私より長かったことに動揺を禁じ得なかったが、今はそれどころではない。他人を羨んだところで睫毛が長くなるわけではないのだ。  どうしようか。  しばらく逡巡した私は、由岐の隣に腰を降ろした。  多分放っておいてもいいのだろう。気にせず教室に戻って次の授業を受けても、きっと由岐は文句を言ったりはしない。私の行動など、彼には何一つ影響を与えたりはしない。だから、これは私の自己満足だ。  借りたばかりの小説から一冊選び、ページを捲った。最初のうちは隣の由岐のことが視界の端にちらついたが、次第に物語に引き込まれて貪るように文字を追った。
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