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episode.4
四回目の貸し出し当番が回って来て、また私は昼休みの半分以上の時間を図書室で過ごした。
由岐の姿はない。元々一人で事足りる業務なので、特段困りはしない。ただ少し、寂しい気持ちにはなった。
クラスでは顔を合わせるが、隣の席にでもならない限り会話をすることもない。一部の男女が親交を持つぐらいで、基本的に学校生活は性別で分かれている。これまでもそういうものだったし、これからもそういうものだと思っていた。
ただ、私の目は気付くと由岐を追っていた。休み時間、先輩に呼び出される回数が増えた彼の姿を、私は密かに心配な気持ちで見守っていた。それは単純に、同じクラスメイトとして、同じ図書委員としての心配なのだと、私は自分にそう言い聞かせた。
昼休みの終わり頃、図書室に似つかわしくない人物たちがぞろぞろと入室してきた。見覚えのある顔。由岐を困らせているあの先輩集団だ。
「あんたが竹谷歩美?」
先輩はカウンターに身を乗り出して、私を舐めるように見た。鼻につくのは相変わらず香水の匂い。
「はい、そうですが」
本の返却ではなさそうなことだけは確かだが、訪問の意図がよく分からない。
「あんた、亨くんの彼女なの?」
「とおるくん?」
「とぼけんなよ。由岐亨のことに決まってるだろ」
「ああ……」
そういえば由岐の名前は亨といったか。そう呼んだことがなかったので、一瞬理解が追い付かなかった。
「いえ、人違いです」
「はあ? 嘘吐くなよ。噂になってんだけど。同じクラスの地味な図書委員が亨くんと付き合ってるって」
「誤解です。私と由岐くんは単なる図書委員でしかないので」
「ねえ香織、やっぱ噂は違ったんだよ。こんなブスで地味な女が亨くんの彼女なわけないじゃん」
「そうだよ。こんなのが亨くんと釣り合うわけないもん。それなら絶対香織の方が良いって」
姉妹のように似ている先輩たちが、口々にそう窘める。どうやら香織と呼ばれた先輩は、由岐と付き合いたいらしい。それなら来るべきなのは私の元ではなく、由岐のところなのではないか。
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